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非日常の日常(和麻)完
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「なあ、颯太」
とうとう父が倒れ入院し始めた頃だった。お見舞いに来た颯太をいつもと違わぬ笑顔で迎えた。颯太の近況報告が終わり、会話が途切れて窓の外を颯太が眺め始めた頃に父が口を開いた。
「楽しいか?」
「別に。今日は天気いいなーって」
「そうじゃなくて、今の生活は楽しいか?」
質問の意味を理解して、ああそういうことかと手を叩き颯太は満面の笑みで答えた。
「あったりまえだよ! やりたいことがいっぱいあって困るくらい!」
その答えにそうかそうかと満足そうに父は頷いた。眼鏡のレンズ越しに見える目が細められて一層笑みを深めた。
「じゃあ、長生きしなきゃな」
ちょうどその時、母が颯太を迎えに来た。父が最後に颯太に言った言葉の意味がよく分からないまま彼は母に手をひかれて病室を出た。

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 正気に戻っても忠誠心が失われたままなら再び暴走する可能性はあるため、玄は帰ってきてもなお定期的に外出しなければならなかった。けれども、玄たちが行なっていることはその場凌ぎに過ぎず、根本的な解決には繋がらない。そのようなことは誰もが分かっていた。
「どうやったら魔法が使えるようになるのかな」
颯太が自分の掌をまじまじ見て呟く。魔法使いとして今回の件は力になりたいと思うが魔法が使えない自分に何ができるのだと、考えを一蹴する。
「暴走した皆は俺が魔法使えないからって愛想を尽かしたの?」
先日の玄が説明したことを反芻して生まれた疑問だった。
「そうとは決めかねますが、中にはそういう者もいるということです」
事件の原因に自分が関係していると思ったら、ますます気が滅入ってしまった。颯太はソファーの上で体育座りをして体を背凭れに預けた。
「お父上は使う時が来たら使えるとおっしゃっていられた気がするのですが」
颯太と一緒に座るわけでもなく傍らに立っていた玄が思い出したように言った。
「だったらいいんだけどね」
ゆっくりと目を閉じる。すると瞼の裏に優しく微笑む父が映った。
 突然玄が弾かれたように顔を上げ、窓に駆け寄った。僅かに彼の表情が強張るのが見えたと思うと、おもむろに窓を開けて烏となり飛び立った。頬を撫でる風にふと目を開けると視界の端にふわりと揺らめく物が見えた。そちらに顔を向けると少し開いた窓から吹き込んだ風がカーテンを舞い上げている光景が目に映った。また、颯太一人取り残されていた。


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