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非日常の日常(和麻)完
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 「暫くの間」というものは具体的にどのくらいの期間を指すのかを疑問に思い始めた頃、流石に颯太は不安になっていた。何せ玄は遠出をすると言ったきり忽然と姿を消してしまったのだから。今回の留守は今までの中で最も長い。その上、会議が長引く時には必ず連絡をしていたが、その連絡すらない。玄に限っては事故など無いだろうと思いつつも、やはり頭に浮かぶのは悪い想像ばかりである。異様な不安に頭をもたげながら普段よりもゆとりのある登校をしていた。玄がいないと逆に早く家を出られることが分かったのだ。颯太は嫌な想像を振り払うごとく頭を振った。すると切るのを怠けて伸びていた髪が鼻にかかった。拍子にその擽ったさにくしゃみが出た。
(あれ……?)
くしゃみが大きく聞こえた。そうして気付いた。
「カラスがいない……」
気に留めていなかったが、いつの間にか問題のカラスがいなくなっているのだ。驚いて辺りを見渡すがやはり黒い影から鳴き声まで全てが見当たらない。異変を理解した颯太は此処だけではなく他の場所でも同様にカラスがいなくなっているのかを確認するべく駆け出した。
視界を入ってくる景色のどこを探してもやはりカラスはいなかった。その時、久しぶりに聞く声がした。

『主人、足元に五百円玉が!』
「マジで! どこ!」
最早反射ともいえる速さで足元に屈んだ。
『ありませんでした』
ないのかよ! と颯太が反駁しようとした瞬間、彼の頭上すれすれの所を黒い影が勢いよく通過する。先程まで見えなかったカラスだ。今颯太が屈んでいなかったら危うく頭を嘴で刺されるところだった。それを烏の姿をした玄が追う。どんどんカラスと距離を詰め、玄がカラスに衝撃波をぶつける。大きく吹き飛ばされたカラスはハッと我に返ったように玄を見て、そそくさとその場を去った。颯太一人が取り残されていた。状況が飲み込めずおたおたする主人のもとに寄ってきた。
『長らく音信不通で申し訳ありません、非常事態に巻き込まれまして』
そう言って玄は人目がないことを確認し、人に化けた。颯太はこの数十秒間の間に起こったことがまだ理解できず何か言いたそうに口を開閉した。しかし何から問えばいいのか分からず結局言葉は出てこない。そこで玄が気を遣って説明し始めた。
「例のカラス問題の原因はどうやら環境的なものではなく私達にあるそうです。問題を起こしていていたカラスは元々私と同じ烏だったそうです。偶然にこの地域はカラスでしたが他の地域では野良猫や蛇などの問題があったそうです」
どうやら各地で問題を起こしていた動物たちは全て魔法使いに仕えた動物の成れの果てであるらしい。そのような風になってしまった原因は魔法使いの数が急激に減少していることに由来していると玄は説明した。
「主一人につき従えるのは一匹となっていますからね。あぶれる者が増えたのでしょう。しかも、最近は魔法を使う機会がないので魔法使いの権威を見せられていないというが事実です」
主が減り、権威を表す魔法を見る機会が減るにつれて彼らの忠誠心は失われていった。だが彼らは魔法使いに仕えるために生まれ、永遠の命は忠誠心の象徴であった。故に彼らの忠誠心が失われることとは存在価値を失ったことと同意である。しかしながら死ぬことのないために暴走状態に陥った。
「それで、変わり果てた同胞を正気に戻すために緊急招集がかかったのです。まあ、留守の期間ずっとほぼ飲まず食わずで頑張ったお陰で大半の処理は出来ました」
先程の衝撃波は同胞を正気に戻すための魔法だったらしい。ふうと息をつく玄の顔は少しやつれている。滅多に変化を見せない彼だからこそどれだけ大変だったかは容易に推測できた。漸く事を飲み込めた颯太はやっと玄が帰ってきたことを喜んだ。
「それは大変だったね。でも無事でよかった、よかった。心配したぞ」
「有難うございます。別に再会した時の第一声がお金を必死に探す「マジで! どこ!」だったことなんて気にしていませんから」
「…………ごめん。でもそれは玄が、」
「時に主人」
颯太は嫌な既視感を覚える。
「念のために申し上げますがデジャビュではありませんよ。」
と玄が告げた時刻に颯太は悲鳴を上げた。普段通りの遅刻ギリギリの時間だった。いつものごとく颯太は再び走り出した。


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あきゅろす。
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