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非日常の日常(和麻)完
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 全速力のお陰か遅刻することは免れたものの体力の消耗が半端ではなかった。その上心なしか以前より持久力が落ちたと感じた。理由は明らかであった。
 魔法使いの血のせいだ。
 幼いころは元気が取り柄だったのに今ではすっかり風邪をひきやすい体である。体の不調を玄に伝えると彼はそろそろがた(・・)が来るころだと教えた。颯太はその時ばかりは玄の無神経さに感謝した。知らぬが仏という言葉があるがこのような時にはいっそのこと知ったほうが良いと思ったからである。現に颯太は玄の言葉を聞いても嘆いたり絶望したりはしなかった。ただ純粋に驚いただけであった。実感が沸かなかっただけかもしれない。しかし、寿命の話になると決まって颯太はこう言った。
「何で俺たちは長生きできないのかな」
颯太が唯一父に尋ねなかった質問だ。そして決まって玄は言う。
「何故でしょうね」
玄たち仕える動物は繁殖活動を行わない代わりに永遠の時を生きる。だから玄には死の概念が至って少ない。主人の死も彼の永い人生においてはただの通過点に過ぎないのかと考え、悲しくなる。そんな物思いに耽る主人の窓の外では烏が何にも束縛されることなく広い空を飛んでいた。

夜が明ければ朝は必ずやってくる。
「お早うございます」
「……おはよう」
今日は先日言われたとおりに玄は人間の姿で颯太の家に来た。それは良いのだが、颯太の個人的な感想としては朝一に見るのが無表情なお兄さんであることは残念というものであった。
「……提案ですが、私が美人さんに化けて差し上げるのは如何でしょうか」
「嫌!」
何を気遣ったのか玄がとんでもないことを言うので考えるよりも先に否定の言葉を口にしていた。玄の人間の姿は顔も整っており、近所の奥様方に人気があるくらいだ。そのため、女に化けてもある程度は綺麗な人になるだろうが実際はあくまで烏である。そして玄に気を使われたことが何より颯太にとって悲しかった。
「そうですか、それは残念」
彼は肩をすくめたが無表情のせいで本気か冗談なのかが全く分からない。
「そう言えば主人、今日から少しばかり遠出をしますので暫くの間お供を外させていただきます」
「りょーかい」
玄が遠出をするのは珍しくない。魔法使いに仕える動物たちで集まる会議が定期的にあるらしい。だから颯太はあまり気に留めず承諾した。しかもお供といっても颯太の周りを玄が飛んでいるだけで、正直颯太はお供なんていらないと感じている。
玄は窓の外を眺めている。外ではカラスがいつものように煩く鳴いていた。


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あきゅろす。
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