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非日常の日常(和麻)完
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制服の走りにくさを恨めしく思いつつ颯太は通学路を辿っていた。
「玄! お前の魔法で俺を瞬間移動させてくれない?」
『嫌ですよ、そんな自分より何倍も重いものを。ご自分でしてください』
烏の姿に戻った玄は必死の形相で走る主人を余所目に上空を飛んでいる。
「くそー! お前俺が魔法使えたことないのを知ってて言ってるだろ!」
そう、颯太は魔法使いの血が入っているのにもかかわらず、十六年間生きてきた中で魔法を使えた試しが一度もない。それどころか、魔法使いの父が魔法を使ったのすら見たことがない。颯太はまだ父が生きているほど昔に問うたことがあった。

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

「ねえ、父さん。何で俺は魔法が使えないの?」
休日の昼下がり、母が出かけていて父と玄の三人でいた日だった。昼食を終え、父がソファーで新聞を読んでいるところに颯太が少しむくれた顔でやってきた。
「そんなに気にするものかい?」
新聞を畳み、ずり下がっていた眼鏡を直しながら父が答えた。颯太は当たり前だろと余計ふくれ面をして父の隣に飛び乗り足をジタバタさせた。
「だって、魔法が使えるから魔法使いなんでしょ?」
「そうか、そうだな。でも使う必要なんてないから使っていないだけじゃないのかな。お前ならきっと必要な時が分かるから」
宥めるように優しく笑いかける。すると怒ったことに罪悪感ができたのか颯太はしゅんとした顔になった。
「じゃあ、父さんは使ったことある?」
「うーん、どうだったかな。あ、そうだ。この前父さん宝くじで三百円当たっただろ。たぶんそれかな」

◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 

それから颯太が父に魔法が使えないことを愚痴るのをやめた。


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