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非日常の日常(和麻)完
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颯太の身支度が終わった所で二人はリビングに降りていった。
「二人とも、おはよう」
颯太の母はにこりと微笑んだ。彼女は人に化けている玄を見るなり気を使わせたことに謝った。
「でも、助かるわ。今とてもじゃないけれどカラスを見たくないの」
母の背後にごおっと憤怒の炎が見えた――気がした。颯太は触らぬ神になんたらと口の中でぼやいてそっと目を逸らし、朝食に手をつけ始めた。
そんなやり取りを颯太の向かい側の空席が見守っていた。今は亡き父の席だ。颯太の父は魔法使いだった。しかしそのような雰囲気はなく、いつもおっとりした物腰で優しく人間と違う点など無いに等しかった、短命ということを抜いては。彼は死ぬ間際になっても笑っていて冗談交じりに家族を励ますほどだった。彼の死後、颯太の母は父を忘れないためなのか若しくは、あの父親なら「天国から追い出された」など言って帰ってくるかもしれないと思っているのか、いつも彼の席に膳を据える。食べる者のいない膳は冷えるばかりであるが、それでもずっとしてきた一種の習慣であった。

その間玄は一緒に朝食を摂るわけでもなく、主人の傍らで考え事をしていた。
(カラスですか……。烏(わたし)と一緒にされるのは御免ですが気になりますね)

「時に主人」
玄がふと口を開いた。
「朝食はゆっくり摂るのが良いとは存じ上げていますが、そろそろ時間を気になさった方がよろしいのでは?」
「え」
おかわりのおかずに伸ばしていた手がピタリと止まる。そのままの姿勢で首だけをゆっくりと時計に向けた。
 動くべき秒針が微動だにもしていなかった。
 因みにと玄が正確な時間を告げると、その場に一瞬の沈黙が流れ、その沈黙は次の瞬間颯太の悲鳴で破られた。嵐のごとく準備を済ませ、名残惜しそうにおかずを一瞥した息子を母が追いやり、彼は家を出たのだった。


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