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非日常の日常(和麻)完
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 街の朝は静かにやって来る。まだ朝靄に包まれている頃、小さな黒い影がゆっくりと上空を飛んでいた。暫くするとそれはある家の二階の窓に止まった。街がまだ目覚めていないせいか羽音はやけに辺りに響く。続いてコツコツと窓をつつく音が聞こえた。少し間が空いて眠気眼を擦りながら部屋の主がカーテンを開けて窓越しに現れた。「玄(くろ)、烏の姿じゃ駄目だって言ったじゃないか」
眠りを妨げられたことが気に食わなかったらしく彼は見るからに不機嫌そうに言い、窓を開ける。
烏――玄はヒラリと部屋に入ったかと思うとたちまち人間の姿へと変わっていった。漆黒の翼は黒いロングコートに、鋭い趾(あしゆび)は黒い革靴に、という風に玄は烏から男へとなったのだ。
「すみません、移動には烏(本来)の姿の方が楽なので」
玄が人間に化けたのを確認すると部屋の主である颯太は、今母さんカラスに敏感なんだよと言ったきり玄の変化に驚く素振りを全く見せず当たり前という様子で身支度を始めた。
「敏感と言いますと?」
「最近、近所のカラスが妙に凶暴で結構な人が被害に遭っているみたい」
颯太の母親も例外ではなく、以来カラスには臨戦態勢をとるようになってしまったらしい。
「それは大変ですね」
「よく他人事みたいに言えるな」
「他人事ですから」
玄はしれっとした態度でそう返した。玄は形式上魔法使いの颯太に仕えている身ではあるが、実際は日常的に主人に対して無関心な態度をとる。本人曰く「真心をこめて、誠心誠意尽くし」ているらしいのだが如何せん無表情な玄である。その無表情で棒読みの言葉の中に颯太は未だ「真心」を見出せていない。颯太自身、玄に仕えられている気がしていない。故に玄をむしろ幼なじみに似た感覚で接している。


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あきゅろす。
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