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非日常の日常(和麻)完
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軽く揺さぶられて彼は瞼を開いた。そこには相変わらず無表情の玄がいた。
「……俺死んだ?」
「ここが冥界だと思われますか」
そう言うと颯太の頬を抓る。容赦のない抓りに頬は面白いほどによく伸びる。
「痛い痛いって! 分かった、夢じゃない、死んでない。俺生きてる!」
「分かっていただけて良かったです」
玄はぱっと手を離し、立ち上がった。ひりひりする頬を摩りながら颯太は自分が妙に元気なことに気付いた。魔法を使った後の疲れが嘘みたいに消えており今まで以上に体が軽くなっていた。不思議そうな顔をすると玄は話し始めた。
「お父上の魔法です。どうやら光線はお父上の魔法で、それは主人の寿命を延ばすものだったらしいですね」
父の魔法、寿命を延ばすという言葉で余計に訳が分からなくなった。
「お父上は立派な魔法使いでございます。主人がこの世界に生きることを楽しむ姿を見て主人が「やりたいことを終えるまで死なない」という魔法を主人にかけたのです」
その魔法を使ったせいで寿命が来てしまったのは残念でしたが、と玄は颯太の父を懐かしむように言った。
「最初から知っていたのか?」
「まあ、一応主人のお父上からは話を聞いていましたので」
「じゃあ、俺は長生きできるの?」
「勿論です」
諦めていたことが現実になり、半信半疑でもう一度玄に尋ねる。今度はゆっくりと教えるように繰り返した。颯太は玄の言葉を口の中で反復すると漸く信じられたらしく、手放しで喜び始めた。



 颯太の魔法は火事を収めただけではなく魔法使いの権威を示す働きもした。放火をしたカラスを始め、忠誠心を失い始めていた彼らにも魔法使いへの忠誠を取り戻した。

「あの魔法は一体何だったのかな」
火事の一件以来、魔法が起きたと取り沙汰されたが颯太の名前は挙がらずに守り神のお陰だということで事は収まってしまった。颯太はあれ以来魔法を使うことはなかった、否使えなかった。つまりはいつも通りの魔法の使えない魔法使いになっていたのだった。しかし以前とは異なり元気が取り柄になった。
「火事場の馬鹿力という諺をご存知ですか」
「知っているよ!」
【完】


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