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境界線上のエリア (薩摩和菓子)
A 笑えない粗忽長屋
椎の葬儀から一週間後、僕は彼女の墓に見舞いに行った。彼女の遺骨を墓地に埋葬する際にも居合わせていたが、誰もいない時に来たかった。
雑草が至る所に生え、墓が乱立している中をジグザグに、隅にある彼女の墓に向かって進んだ。今日は花も線香も持ってきていない。それでも彼女は気にしないだろう。
彼女の墓は一週間前に掃除されたまま、あまり汚れていなかった。彼女の戒名が書かれた位牌も未だ削りだされてからあまり月日が経っておらず、黒ずむ兆候も見せていない。しかし供えられた菊の花は日差しに晒され、枯れていた。
僕は何もせず、ただ眼を閉じた。

何時程経っただろうか。目を開ける。日差しに目が眩む。傍らに椎の通っていた学校の制服を着た女子がいた。椎の同級生だろうか。
段々閉じていた目が光に慣れ、徐々に女子の輪郭が鮮明になっていく。前髪が右目を覆っている、襟から覗く首筋が細い、そして、そして、
女子は椎だった。先ほど僕がしていたように眼を閉じている。そして光を放つ粒子を身に纏っていた。蝶の鱗粉を想像してしまったが、よく見るとそれは日差しを反射した塵だった。椎は煙を纏っていた。
椎は目を開いた。僕に見られている事に気付いた様だ。幼馴染の名前を呼ぼうとした時、相手が口を開いた。
「あなたは椎とはどういう関係でしょうか」
予想の範疇外の事を訊かれた。だからと言って答えないでいるのもおかしいので、答える。
「幼馴染、だけど」
「そうですか。私も彼女の幼馴染です」
軽く眩暈を覚える。椎が椎の幼馴染な訳無いじゃないか。
「その、君の名前を聞いて良いか」
「はい。私は閑静院妙法空椎童女です。私は死後の椎、という事になりますね」
閑静院妙法空椎童女は椎の戒名なのだから。
「そこにある線香を供えて頂けますか。この身では物を扱う事に不自由するので」
そう言って指した先、本来既に火を着けられた線香が置かれるべき場所(正直名前は知らない)には確かに、火の着けられていない線香一束と百円相当と思われるライターが置かれていた。屈み込み、それを取り出す。言われた通りに火を着けようとした。
唐突に死後の椎(自称)の方から空っ風が吹いた。煙がこちらになびき、煤が右目に入った。

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あきゅろす。
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