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境界線上のエリア (薩摩和菓子)
止められない電車 
ある何時も通りの日。自分の幼馴染である椎は登校の電車の中で口を開いたかと思えば、こんな話は始めた。
「ねえねえヒイ君。幽霊信じる」
語尾を上げているから、質問なのだろう。彼女の質問文は語尾を上げることだけでしか成立しえないし、助詞を平気でいくつか省略する。英語の筆記テストでも、それで減点の大半を稼ぎ出してしまう始末。仮に将来自分が聾唖になったとしても、彼女とだけは筆談したくない。
因みにヒイは自分の苗字、柊の頭を取った渾名。あまり気に入っていない。でも椎と話しているときはヒイと呼ばれても気にならない。寧ろ、何故か分からないが、共通意識を感じる。
「幽霊の定義による」
「ヒイ君いつもそうだよね。科学的グレーゾーンな話を振る度定義訊く」
 そんな奴にグレーゾーンな話を振るのもかなり変わっていると思う。無視して定義付けに話題を戻す。
「死者が生前の姿になって現れたものってことか」
「うん。その定義良いと思う」
椎はあっさり肯定した。そのまま考えをずらずら並べてもよかったが、一応その質問の経緯を聞く。
「でも何でそんなことを聞くんだ」
「もしも死んじゃった時は、幽霊になれるかな、と思って」
そんなことを考えていたのか。でもまあ、人間が、いつか死ぬことを考えるように、死後に幽霊になる可能性を考えることはある種の必然なのかもしれない。
「ぱっぱと成仏したいとかは思わないのか」
正直現在に固執する必要は無いのではないか。
「だってヒイ君とまた会うことが出来なくなるから」
遠まわしに告白されたような気分だ。どう対応すべきが迷っている間に電車は椎の通う学校に着いてしまった。
「じゃあ帰りにまた」
手を小刻みに振りながら――今までの話題を黒板消しで消そうとしているかのようにも見える――電車から降りた。後を追い掛けようかとも思ったが、自分の駅はもっと先だし、次の電車を待っていたら学校に遅刻する。元々自分ら二人が待ち合わせているこの電車は、自分が学校に遅刻せずに到着できる中で最も遅い奴だった。遅刻覚悟でこの電車から降りようか、やっぱりさっきの発言の真意を訊くべきじゃ
外に向かって足を踏み出そうとした時、電車のドアが閉まった。僕は既に閉まったドアに手をつき、椎が改札に向かうのを見守ることしか出来なかった。

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あきゅろす。
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