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スアサイダル・リミッター (明暗電子)
Line Out
メールで送られた通りの時刻に学校に着いた僕は、端末に表示される見取り図に従って転入先のクラスの教室へ向かう。段差にタイルが無秩序な配色で敷き詰められ、壁と天井が真っ白な階段。段差を見ていなければ、学校では無く病院にいるように錯覚してしまう。そんな階段の途中に女子がいた。髪は見るからに手入れの施されていないロングで、中空を焦点も合わせずに見上げる様子からどこか抜けている様な印象を受ける。もしや精神病棟から抜け出したのか、とも思ったが、ここは学校。ただのおっとりキャラなんだろ。何もせずに擦れ違おうとしたが、女子の右手に『あるべきもの』が無いことに気づいた。
「どうしてあなたは右手に端末を着けていないんですか」
決められた時間まであまり時間が無かったが、あまりに不自然なので訊かずにはいられなくなった。
「え、」
女子は右手に目を遣った。
「あー、本当だ。端末失くしてたんだー。気付かなかったー」
どこか所ではなく至る所が抜けていたらしい。特に危機感の辺りが。
「市民は着用を義務付られているし、手を切り離さない限り外せないように出来てるんですよ、端末というのは」
それにあなたの右手は普通に繋がっているし。
「そうだよねー。何で無いんだろー。さっきまではあった気がするんだけどなあー」
傍目には消しゴムを無くしたようにしか見えない。
「大体感触で分かるものでしょう」
「そういえばあ、左手が今日は重い気がするー」
普通『右手が軽い』じゃないのか。
「直ぐに市役所に行って、再発行して貰えば良いと思うぞ」
右肩の辺りから声がした。振り返るとそこには別の女子がいた。活動的なショートで、太めの睫毛に『我が道を行く』と言わんばかりの意志の強さを感じる。
その女子は視線を危機感ゼロ少女から僕に移した。
「こんな小規模な学校にしてはあまり見ない顔だが、もしかして君は転入生か」
「はい。今日から一年I組に転入します、ムヌシ モトイです。無い主に基本の基でモトイです」
「そうか。私の名はツツミ マモル。ツツミは堤防の堤でマモルは護衛の護。二年L組だ。色々と慣れない事も多いだろうが、ここは先生からの束縛は無い、良い学校だ。直ぐに気に入ると思うぞ」
自己紹介が終わると、堤は視線を危機感ゼロ少女に戻す。
「今まで端末の紛失は前例の無いことだが、役所で再発行して貰える筈だ。元々全市民に無償で提供される物だしな」
「でも市役所までの道筋が分からないのですがー」
仕方なく僕と堤は女子を市役所まで連れて行くことにした。メールの内容には背く事になるが、別段問題は無いだろう。堤からも
「ああ。転入一日目はただ単に同クラスの連中との初顔合わせをするだけだ。別に行っても行かなくても問題無い」
と言われたし。
どの道この学校には生徒しかいないのだから。

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あきゅろす。
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