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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 清水の幼馴染だという瀧澤の住所が、確かに和倉であることを確認した津野は、次に瀧澤の親戚、友人関係を調べた。
 津野の勘が正しければ、その中に清水以外にも、今回の事件の関係者がいる筈である。
 しかし、残念ながらこの予想を裏付けることは出来なかった。
 瀧澤に兄弟はいなかった上、親の代も兄弟がいない為、親戚間の横の繋がりがなかったのである。また、彼の高校時代の友人とは、5年前に石川県に引越ししてから、仲が疎遠となっていて、接点は特に掴めなかった。
(やはり瀧澤は今回の事件と全くの無縁なのだろうか。)
 と、津野は思った。
 捜査の報告も兼ねて、警視庁へと戻った津野は、自分の考えを率直に武井にぶつけた。
「……という訳なのですが、警部なら、どのように判断しますか。」
「難しい質問だな。私なら恐らく津野君と同様に考えるだろう。この事件には瀧澤という人間も関わっている、と。だが、それはあくまで直感であって、証明しなければならない。それが出来なければ、ただの推測にしか過ぎないからな。ガワさんならどうだね。」
「私ですか。確証がない以上は、不当に犯人扱いは出来ませんね。第一に、その瀧澤という人間には、動機が全く見当たりませんからね。」
「問題はそこなんですよ。私の考えでは、今回の事件で、能登島の廃校舎を手配したのは、和倉に住む瀧澤ではないかと、直感で思ったんですが、動機がなければわざわざ事件に加担する必要も無い筈なんですよ。」
 と、津野は言った。
「だが、15年前の事件と瀧澤が、全く無縁だった訳じゃないんだろう。」
 と、武井が聞いた。
「いえ、実はそれもあくまで推測なんです。」
「それじゃあ、駄目じゃないか。」
 と、小川が声を張り上げた。
「まあまあ、ガワさん。落ち着いて最後まで聞いてみようじゃないか。」
 と、武井がなだめた。
 津野は続けて言う。
「15年前の事件の2日前に、清水が今川に喫茶店で何らかの話をした、ということは先ほど言いましたが、その中身は、今川と松田に関することだったんじゃないでしょうか。松田は清水の初恋の人ですから、その松田を振った今川に対して、何も言うことはなかったか、というとそんな筈はないと思います。しかし、今川の立場からしたら、赤の他人の清水にとやかく言われる筋合いは無い。二人の仲が険悪になっても不思議ではなかったと考えられます。」
「なるほど。そこで、清水の幼馴染の瀧澤が一役買って出た訳だ。」
「そういうことになります。それから、清水と瀧澤は、表面上は単なる幼馴染だったとしても、瀧澤の方は清水に好意を寄せていたんじゃないでしょうか。」
「すると、瀧澤にとっては、今川と松田の両方が邪魔な存在だった訳か。つまり、君の推測は……ちょっと待て。もしや、瀧澤の血液型はB型なのか。」
「はい。ですから……」
「いや、そこから先はわざわざ言わなくてもいい。」
 と、武井は津野を遮る形で言った。
 部屋には、しばしの沈黙が流れた。
「……今の考えは、考慮する必要がありそうだな。一応、筋道立ってはいる。だが、今回の事件では、瀧澤の名前は挙がってこない。やはり、事件の当事者との接点が欲しい。」
「清水と接点があった、だけでは確かに不十分ですね。」
 と、小川が相槌を打った。
「いや、違う。清水と接点があってはならないんだ。恐らく、もし、さっきの推測が正しかったとしても、清水は15年前の事件の真犯人が、瀧澤だったということは夢にも知らないだろう。」
 小川と津野は、武井が言うことの意味が解せないのか、ぽかんとした表情を浮かべている。
「いいか。よく考えてみるんだ。今回の一連の事件の主犯、首謀者ではなく主犯だが、間違いなく青木修平、つまりは今川周平とみて間違いないだろう。だが、彼は復讐を目的としているのだから、かつての真犯人が松田ではないことを知ったら、事件を起こす理由がなくならないか。」
 と、武井が説明した。
「つまり、瀧澤が今川愛奈を殺した、という事実を知っていた者が、それをたてに瀧澤を脅して、能登島における近藤夫妻殺害の準備をさせたのだろう。それと同時に他方では、その事実を隠して、松田が真犯人だったというイメージを青木の頭に刷り込ませ、青木に多くの殺人をやらせたのだろう。」
「……ということは、瀧澤と接点があるのは、渡嘉敷ですか。」
 と、津野と小川ははっとして言った。
「恐らくそうだろう。鈴木刑事が間に立っていたとは考えにくいからな。渡嘉敷が首謀者だと考えられる現段階では間違いない。」
 と、武井は言った。
「そう言えば、渡嘉敷について家族構成などを調べていたときに、父親が挙がってきませんでしたね。もしかして……」
「私も同じ考えだ。渡嘉敷と瀧澤は、異腹の兄弟なんじゃないかな。渡嘉敷というのは、母方の姓だろう。そう考えるとなんら不思議な点が感じられない。」
「今すぐその点を調べてきます。」
 津野はそう言って、部屋を駆け出して行った。

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