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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「これは、まさか……」
 15年前の事件の再調査を行っていた津野は、ある一つの証言を見つけた。
 それは、殺害された今川愛奈と清水遥の関係に関するものだった。
 その証言では、事件が起こる2日前に、清水がわざわざ放課後に今川を呼び出して、近くの喫茶店に入ったというのだ。
 女子高生が行ったこととしては極めて普通である。その喫茶店は、緑ヶ丘高校の生徒が頻繁に出入りするところであったし、実際、清水や今川も時として利用することもあった筈である。
 しかし、問題は清水が呼び出した、という点である。清水と今川はサークルでの面識はあったが、高校では同じクラスに所属していた訳でもなく、まして仲が良かった訳でもなかったらしい。
 当時の同級生の話では、二人は犬猿の仲と呼ぶに相応しく、互いに口をきくことは全くと言っていいほどなかったらしい。それもその筈である。二人はどちらも高校のミス候補であった程の美人だったし、清水にとってみれば、自分の初恋の相手の心を惹きながらも、無惨に振ったのが今川である。仲が良いわけがないのだ。
 しかし、事実として清水は今川を誘って喫茶店に行っている。何か話があったのだろうが、その中身は一体何だったのだろうか。
 残念ながら、その内容を確かめる術はなかった。当時、その喫茶店に勤めていた人を探し出しても、当然誰がどういった内容の話をしていたかなど、憶えている訳がない。そして何より、肝心の喫茶店は、3年前に潰れてしまっていたのだ。
 結局、清水が今川にした話の内容は、想像に任せるより他はなかった。しかし、これは今まで全く目を付けてこなかった視点である。松田と今川ではなく、清水と今川に何かがあったのではないか、という発想はしてこなかった。
 だが、この推測には一つ大きな問題がある。何故、松田たちが殺されなければならなかったか、である。
 もし、今川愛奈殺害の件に関して、松田が関わっていなかったとしたら、一連の事件の動機そのものから考え直す必要が出てくるのである。
 いずれにせよ、この仮説を補強する証拠というものが必要である。津野は自らの足で、15年前の事件前後の清水の行動や、交友関係を調べることにした。
 津野が最初に向かったのは、栗原の家であった。栗原は高校こそ清水とは異なるが、それでも中学から同じサークルに所属していたので、何か知っているのでは、と思ったからである。
 相鉄線星川駅の近くにある栗原の家の周りには、武井警部が配備した張り込み中の刑事が二人いたので、予め連絡を取ってから、津野は栗原宅に入った。
「先日、武井警部がこちらへ伺ってから、何か変わったことはありませんか。」
 家の中に通して貰った津野は、まず警戒心を解こうと、何気ない会話から切り出した。
「いえ、特にありませんよ。ただ、何者かに見張られてるような気分に時々なりますけどね。」
 と、栗原は答えた。
「大丈夫です。警視庁の刑事が数名、あなたの身の安全の為に張り込みをしているだけです。犯人グループにあなたが再び襲われることのないようにする為で、決してあなたを疑っている訳ではないので、安心して下さって結構ですよ。」
「なるほど。見張りの刑事さんだったんですか。それなら安心しました。武井警部にお礼を言っておいて下さい。」
 と、栗原はさもほっとした様に言った。
「ところで、今日、こちらへお伺いしたのは、実は一つだけ聞きたいことがあったからなんですが、よろしいですか。」
「それは、一連の事件に関するものですか。」
「事件の動機に関するものです。中学高校時代の話なんですが、松田さんと清水さん以外に県立緑ヶ丘に進学した生徒は誰かご存知ですか。」
「……緑ヶ丘ですか。ちょっと待って下さい。」
 栗原はそう言って、押入れの中からダンボールを取り出し、さらにその中から一冊の分厚い冊子を持ってきた。
「これは、宮田中の卒業アルバムなんですが、ここに誰がどこの高校に進学したか、メモを取った記憶があるんですよ。……あった、ありました。多分これですね。……えっと、緑ヶ丘高校は、松田と清水さんの他には、……箕口、白井、瀧澤の3人が進学した筈ですよ。」
「この中で、特に清水さんと親しかった者は誰かいますか。」
「それなら、間違いなく瀧澤直貴でしょう。二人は別に恋人同士だった訳ではないですが、幼稚園時代からのそれこそ幼馴染だった筈ですよ。」
「その、瀧澤さんは、今どちらにお住まいだか分かりますか。」
「5年前に石川県に引越しをした筈ですが、それ以降特になければ、まだ和倉の近くに住んでると思いますよ。僕も一回だけお邪魔させて貰いましたから。」
 と、栗原は快く教えてくれた。
「ありがとうございます。今日はこれで失礼させて貰います。」
 津野はそう言って、栗原の家を出た。
(石川県の和倉だと。これは偶然なのか、それとも……)

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