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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 元西の快復は、捜査本部にとって喜ばしいことではあったが、かといって捜査がはかどった訳ではない。
 警視庁へと戻った武井たちの前には、問題が山積みとなっていた。
 情報収集と処理に長ける津野を中心に、15年前の事件について再調査を行ってはいたものの、神田刑事部長の命令であからさまな捜査ができず、四苦八苦していた。
 また、青木や渡嘉敷らには、引き続き見張りがつけられていたが、28日からの3日間、全く動きが見られなかったことも、武井たちを苛立たせる要因になっていた。
 そもそも復讐が絡んでいる殺人事件のため、数日間の間、犯人側の動きが見られないことはよくあるのだが、捜査本部の者がそれでも苛立つ理由は、やはり神田刑事部長にあった。
 最初の事件発生は3月10日。今は既に31日。4月に入ろうとしている。最後の殺人が起こった21日から、既に10日が経過している。
 もともと今回の捜査に乗り気でなく、神奈川県警の顔色ばかり窺ってきた神田部長は、事件は終息しつつあると見て、既に捜査本部の縮小まで検討を始めているのだ。彼の頭の中には、やはり自らの保身しかないのである。
「参ったよ、ガワさん。3日後から、捜査本部の規模を27日以前と同規模まで縮小することになってしまった。」
 神田部長に呼ばれていた武井は、戻ってくると真っ先に愚痴をもらした。
「やはり、神田部長ですか。せっかく刑事を数人動員したばかりなのに、一体どういう心算なんですかね。」
「全くだよ。部長が言うには、事件が拡大しないための増員だったそうだ。決して捜査に力を入れようとした訳じゃないらしい。」
「やはり、その裏には神奈川県警の存在がありますか。」
「間違いないだろうな。原口警部らから直接捜査の中止でも求められたんじゃないかな。」
 と、武井は言った。
「すると、その裏には鈴木刑事が絡んでいる可能性も、やはり否定できないですね。」
「ああ。彼は、原口警部の信任が厚いからな。彼が私達の捜査に渋い表情を見せれば、原口警部もそういった意向を警視庁の方に伝えようとするだろう。」
「肝心の15年前の件に関しての捜査も、一向にはかどっていませんから、これは厳しくなりそうですね。」
 と、小川が言った。
 そのとき、武井のもとに岡部から電話が掛かってきた。
「どうした。清水が動きを見せたのか。」
「厳密に言うと、清水が、ではありません。県警の鈴木刑事が彼女の元をつい先ほど訪れました。」
 と、岡部は言った。
「原口警部も一緒なのか。」
「いえ、鈴木刑事一人だけです。ただ、周りを警戒するような素振りは見せずに、堂々と中に入って行きました。」
「君たちが張っていることは気づかれてないか。」
「大丈夫だと思います。」
「彼だということは間違いないのか。」
「はい。公用車で来ましたし、顔もしっかりと確認しました。」
「すると、表面上は事件の事情聴取ということになるな。現場は押さえられないし、盗聴する訳にもいかない。中の様子は分からないのか。」
「残念ながら、それには無理があります。」
「何とかして仕掛けてみるんだ。誰かセールスマンに変装して、様子を見られないか。」
「先ほどやってみましたが、誰も出て来ませんでした。」
「仕方ない。そのまま外で待機しておけ。鈴木が出てきたら、誰かが尾行につくんだ。もしかしたら、渡嘉敷や青木と接触を図るかも知れない。」
 と、武井は言った。
「しかし、それでも捜査の一環ですから、手が出せませんよ。」
「構わない。これは絶好の機会だから、逃す訳にはいかない。とにかく様子を見るんだ。」
「はい、了解です。」
 そう言って、岡部からの電話は切れた。
「鈴木は尻尾を出しますか。」
 と、小川が聞いた。
「難しいかも知れない。しかし、ひょっとしたら何かがつかめるかも知れないからな。」
 と、武井は期待を込めて言った。

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