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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 武井が三谷から貰った資料には、残念ながら事件前の数日間に関しての調査報告が全くなかった。
 恐らく、周りの生徒の証言から、犯人は松田隆文で、動機は失恋にあると考えられたからであろう。
 もし、真犯人が別にいたとなると、神奈川県警は、事件の初動捜査の時点で先入観から間違いを犯していたことになる。
「しかし、15年も前の事件に関しての再捜査は、骨が折れますね。碌な証言も得られませんし、何より、証人を探すところから一苦労です。」
 小川が溜息をつきながら愚痴を漏らした。
 それもその筈である。事件の数日前といっても、その間の松田ら6人が何を行っていたかの証言である。そう簡単に情報が見つかる訳がないのである。
「まあ、焦らずじっくりと調べていくしかないよ、ガワさん。そう言えば今朝、東京多摩病院の方からまた連絡を貰ったんだが、元西君との面会が許されるそうだ。今から行かないかね。」
「そうですか。それなら行きましょう、警部。」
 気晴らしも含めて、武井と小川は捜査を一時中断して、元西が入院している東京多摩病院へと向かった。
 武井が担当の医師に来訪を告げると、元西の病室まで案内して貰った。
 病室前の名札には、「西本」と記されていた。
 もちろん、元西の安全を図るためである。青木らの手の者によって、元西が再び狙われる恐れがあるからだ。
 武井が扉をノックすると、中から「どうぞ。」といった声が聞こえてきた。
 扉を開けると、そこには元西の他に、一人の来訪者がいた。
「一体誰だ。」
 と、小川が反射的に身構えて聞いた。
「お久し振りです、武井警部、小川刑事。」
 来訪者はそう言って、武井たちの方を振り向いた。
「……おや、杉山刑事じゃないか。久し振りだね。」
「はい、警部。その節はいろいろと協力して頂き、ありがとうございます。」
「ところで、県警のあなたが、どうしてここに……。」
「まあまあ、ガワさん。そんな事はいいじゃないか。杉山刑事も、元西君の身を案じて来たんだから、それ以上は気にしなくてもいいだろう。それよりも……」
 小川の発言を遮る形で、武井が言った。
「……元西君。君をこれ程までに危険な目に遭わせて、本当に済まなかったと思う。申し訳なかった。」
 と、武井は頭を下げた。
 当の元西は、武井たちに背を向けたままで、何の返事もない。
「……元西君。」
 と、次の瞬間、堰を切ったように病室に笑い声が響いた。
「冗談は止して下さいよ、武井警部。何も謝ることなんかないですよ。」
 元西が腹を抱えて笑っていた。
「……いや、しかし……」
「警部があれほど畏まって謝るものですから、可笑しかったので、必死に笑いを噛み殺していたんですよ。」
「そこまで可笑しかったかね。私としては、一般人の元西君に捜査協力をお願いしておきながら、君の身の安全を守れなかったから、謝るのは当然のことなのだが。」
「謝るのは、僕の方ですよ。自分から仕事を引き受けておきながら、事故に遭って警部にご心配とご迷惑をお掛けしましたから。」
 と、元西は言った。
「とにかく、君がまた元気になってくれて、私たちとしては嬉しいよ。」
「ところで、警部。捜査の進行状況は杉山さんから聞きましたが、3日後に退院したら、また捜査に参加しても構いませんか。」
「その気持ちには感謝するが、残念ながら君の好意に甘える訳にはいかない。そのせいで君は生死の境を彷徨ったのだからね。」
「それなら今度は大丈夫ですよ。前回は、はやる気持ちを抑えられずに、多少の無茶をしましたが、今度はしっかり自分の身の安全は確保しますよ。それに、あくまで名目上は、武井和久さんの依頼による捜査だとすればいいでしょう。その場合には、自分の命の責任は自分にありますから。」
「しかし、それでも警察権力が一般人に仕事を引き受けて貰うわけには行かない。」
 と、武井が言うと、
「相変わらず警部は堅苦しいですね。それならば、名目上ではなく、実際に警部個人の依頼ということにしましょう。その代わり、ギャラはたっぷり出して貰いますよ。」
 と、元西は笑って言った。
「いや、しかし、そうだとしても……」
「大丈夫です。今回はボディーガードが一人つきますから。」
 会話の途中で割って入ったのは、県警の杉山だった。
「私が、本西さんの身の安全は保証しますから、武井警部は安心して下さって構いませんよ。」
 と、杉山は笑って言った。
「県警の鈴木刑事にばれないでやれるのか。」
「それに関しては抜かりなくやります。」
「分かった。それなら許可しよう。ただし、無理だけはするなよ。」
「分かってますよ。」

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