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十五年越しの殺意(外村駒也)完
ページ:8
「多分これがそのときの資料だよ。」
 15分ほどして、三谷は、クリップで留められた20枚ほどの資料を部屋から持ち出した。
「書棚の裏にでも隠していたのですか。本を移動する音がしきりに聞こえてきましたが。」
「ほとんど正解だ。厳密には、書籍のカバーの裏に一枚ずつ分けて保管していたんだよ。お陰で、全部の資料を取り出すのにかなり手間取ったがね。」
 と、三谷は苦笑して言った。
「証言をしたのは、緑ヶ丘高校の生徒ばかりですね。周辺住民の証言が少ない印象を受けますが。」
 資料に目を通しながら、小川が聞いた。
「生徒の証言から、犯人も緑ヶ丘の生徒と考えられたからだろう。その場合は、住民の証言はさほど役に立たないからな。」
「複製して持ち帰っても構いませんか。警視庁の方で詳しく検討してみようと思いますので。」
「それは構わんが、私から資料を得たことは極秘で頼む。」
「分かりました。」
 三谷の家を出た二人は、早速警視庁へと戻り、吉岡と共に、資料にもう一度目を通した。
「ほぼ全校の生徒から話を聞いていたみたいですね。」
 と、吉岡が言った。
「ああ。だが、役に立つ証言というのはほとんど出てきていない。」
「殺された5人の証言はどうなっていますか。」
「松田は、容疑者としての取調べを受けている。当然、今川を殺害したことに関しては、否定の立場は崩さなかったみたいだ。」
「証拠品として現場に落ちていたボールペンを見せた前後で、何か違いが見られますか。」
「自分の物ではない、の一点張りだったみたいだ。指紋は取れなかったから、結局、そのボールペンが松田の物だと証明できず、松田の釈放につながったらしい。」
「アリバイの方はやはり無かったみたいですね。該当の時刻には、家に一人で居たと言っていた、とありますから。」
「他の4人の証言は、まるで口裏をあわせたように一様だな。」
「どのような証言なんですか。」
 と、小川が聞いた。
「松田が今川を殺す動機があったことを全員が示している。だが、松田が殺した筈はないと言っているんだ。特にこれといった理由は記述されていないがね。」
 と、武井が資料を見て言った。
「理由もないのに、松田に今川殺しが出来なかったというのですか。それはあまりにも無理がありますよ。」
「分かっているよ、吉岡君。だから、その裏に何かしらの隠すべき理由があったんだろう。」
「すると、渡嘉敷はその理由を掴んで、それを餌に青木をけしかけた、と考えて良さそうですね。」
 しかし、問題はその理由が何かであった。
 この段階で、それらしい理由が思いつく筈もなかった。
「警部はどのように考えますか。」
「可能性の一つとして、松田を含めた5人が、事件が発生した時刻に同一の場所にいて、何か警察に知られてはならないことをしていた、程度だろう。」
「非常に曖昧ですね。」
「それは承知している。だが、何の情報もない現段階で、これ以上の推測は無理があるだろう。」
「警察に知られてはならないこと、って何だったのでしょうか。」
 と、吉岡が聞いた。
「当時の高校生が考えそうなことだ。酒かタバコ、最悪の場合は薬物、といったところじゃないかな。」
 と、小川が冗談めかして言った。
「いずれにしろ、どうやらやはり事件の前の数日を詳しく調べる必要があるな。」

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