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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「15年前に県立緑ヶ丘高校の生徒が殺害された事件に関しての資料ですか。」
 武井と小川は、15年前の事件の捜査本部が設置された神奈川県警の山手署に来ていた。
 二人に資料を求められた山手署の警官は、怪訝そうな表情が表れていた。
「県警の方ならまだしも、警視庁の方が、どうして15年も前の事件を調べているのでしょうか。それも、あと2ヶ月で時効を迎える事件です。私には理由が分かりかねますが。」
「ほかの事件の捜査の過程で、どうしても調べなければならないのですよ。資料がないということは有り得ないでしょうから、是非とも見させて頂きたいものですね。」
 と、武井は言った。
「しかし、そう言われましても……。そのような事情でしたら、県警を通して報告をして貰えると思いますが。」
「極秘の捜査ですので、そういう訳にはいかないのですよ。」
「しかし、ここは神奈川県警の所轄ですから、警視庁の方が無断で捜査は出来ないことになっていますよ。それはご存知でしょう。」
「もちろん知っています。しかし、殺人事件の捜査ですから、警視庁としても捜査の手を緩める訳にはいきません。何とか見せて貰えませんかね。」
「……分かりました。人命が懸かっていると言われて断る訳にはいきませんから、お見せしましょう。ただし、県警側には秘密でお願いします。私の首が懸かっていますので。」
 武井たちは、最終的に何とか許諾を得ることが出来た。
 事件の調書などを複製し、持ち帰って調べることになった。
 次に武井たちが向かったのは、神奈川県警の元警部補、三谷賢一の自宅である。
 15年前の事件の調書などから、事件を担当したのは、三谷警部補であることが分かった。彼は、2年前に定年で刑事の職から離れていた。
 定年退職したときの住所は、川崎市内にあったが、そこに三谷の家はなかった。
 近隣住民に聞いたところ、相模原市に引っ越したということだった。
「私は既に、警察を辞めた身なのだよ。また事件の捜査協力を一般人にさせる心算なのかね、県警は。」
 武井が呼び鈴を鳴らすと、三谷はすぐに顔を出したが、非常に不機嫌そうであった。
「いえ、県警ではなく、警視庁の者です。捜査一課の武井と申します。」
 どうやら、三谷は武井らを県警の人間だと思っていたらしい。状況が呑み込めないようであった。
「……警視庁の方でしたか。すみません。つい、県警の者だと思いまして。中へどうぞ。」
 武井と小川は、居間へと通して貰った。そこには、三谷が県警の警部補だった時代に貰ったらしい賞状などがたくさん並んでいた。
「それで、警視庁の方が、刑事を引退した私に何の用でしょうか。何も後ろめたいことはしていないのですが……。」
 と、三谷は心配そうに言った。
「実は、三谷さんが15年前に捜査を担当したとある事件について知りたくて伺いました。」
「15年前、ですか。すると、県立緑ヶ丘高校の女子生徒が暴行殺害された事件のことですね。」
「はい、その事件に関してです。」
「しかし、あの事件は今も未解決だと思うがね。今年の6月、あと2ヶ月で時効を迎える。それに、あれは県警の所轄の事件だ。警視庁が出てくる理由も分からない。」
「その事件自体の捜査ではありません。他の事件の捜査の過程上、調べる必要性が出てきただけです。」
 と、武井は言った。
「それで、あの事件の何が知りたいのですか。」
「言ってしまえば、全てです。事件の調書を含む大まかな資料は手に入れました。しかし、事情聴取などの記録が残されていなかったので、担当した三谷さんから、直接聞きたいと思います。」
「しかし、15年も前のことだ。記憶は曖昧だが構わないかね。」
「勿論です。」
「あの事件は非常に不自然な事件だった。状況証拠が、緑ヶ丘高校の松田隆文が犯人だと語っていたんだが、物証がほとんど見つからなかった。唯一あったのが、ボールペンだ。それは、どこにでも売っているような物だから、決め手にならなかった。」
「ええ、それは聞きました。」
「それから、聞き込みで今川愛奈が緑が丘の男子生徒と共に、校舎裏へと向かうところが、数人の生徒に目撃されていたんだ。ところが、彼らは皆、今川は認識できたが、もう一人が誰だか分からなかった、と言っていた。」
「しかし、それは帽子を目深に被っていた、などして、顔を隠していたという事ではないのですか。」
 と、小川が聞いた。
「いや、そう言う訳ではなかったらしい。顔が思い出せない、と口を揃えて言っていた。」
「それらを証言したのは、誰だか分かりますか。」
「構わないよ。資料は全部、複製をとって残してあるからね。これは、本当は非合法なんだが、神奈川県警で生き残る為には、自分に保険をかける必要があったのでね。少し待っておくれ。」
 三谷はそう言って、隣の部屋へと入っていった。

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あきゅろす。
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