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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「いきなり入ってきて何ですか。ノックぐらいしてくださいよ。」
 ここは、栗原が入っている病院だ。
「何ですか、じゃない。何なのかくらい、わかっているんだろう。私は、神奈川県警の原口という者だ。栗原将史、お前を横浜スカイビルにおける、松田隆文殺害容疑で逮捕する。」
「冗談じゃない。第一僕は誰かに襲われたんですよ。証拠でもあるんですか。」
「襲われたのではなく、君の自殺未遂だとわれわれは考えている。ともかく、署までご同行願おう。」
「嫌だといったらどうするんですか。」
 と、栗原は食い下がった。
「馬鹿なことを言うな。とにかく大人しくついて来い。」

 栗原は留置場に連れて行かれた。原口の有無を言わせない迫力の前に無抵抗で放り込まれたというほうが正確なのかもしれない。
「警部さん、俺は本当に何もやってないんだ。信じてくれないのか。」
「馬鹿を言え。お前以外に誰が殺るというんだ。なら、一つ聞こう。お前は3月10日の午後5時ごろどこにいた。」
 と、原口は聞いた。
「5時ごろですか。たぶん横浜駅で関内方面行きの電車でも待っていたんじゃないですかね。」
「嘘をつくな。市立宮田中の同窓会に出ていたことはわかっている。」
 と、原口が怒鳴った。
「……確かに出ましたけど、近藤君に会うのが目的だったので、用事を思い出して帰ったんですよ。丁度5時少し前ぐらいだと思います。」
「話が違うじゃないか。お前はその後8時から、同僚の青木と飲みに行く予定だったんだろ。それとも、それが用事なのかい。ふん、馬鹿げたことを言うんじゃないよ。」
「しかし、人を殺した後の人間が、ゆっくり酒を飲めるわけないでしょ。」
 と、栗原は言った。
「いいか。人殺しは、普通の人間と心情を始めとして全部違うんだ。だからお前がどういう心情だったかなんて察しがつく訳がない。」
 と、原口は言った。まるで栗原が松田を殺したんだと決め付けたような言い方だ。
「だから僕は殺してなんか……」
「原口警部。高橋さんから、検死結果が届きました。」
 元西が、取調室に飛び込んで言った。
「わかった。栗原、少し待っていろよ。」
 原口と元西は廊下に出て話を始めた。
「これが高橋さんから送られて来た資料です。」
 そういって元西は、1枚の紙を渡した。
「死因は……青酸カリ、毒物だと。ナイフによる大量出血じゃないのか。死亡時刻は、3月10日午後4時55分。時刻は、栗原がスカイビルを出る前だな。まあ、今のところは、栗原が犯人だという線に支障はない。」
「ただ、警部、ナイフについていた指紋の件なんですが、どうも栗原のとは一致しないそうなんです。」
 と、元西は言った。
「なあに、気にすることはない。あれは調理室のナイフだっただろう。だから、あえて誰かの指紋のついたものを使い、自分は手袋をしてやったに決まっている。」
「そうですか。それならいいんですが……。あ、そういえば、警視庁のほうから松田隆文の経歴についての報告が来ましたよ。」


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あきゅろす。
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