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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 武井と小川は、共犯者の件に関して、特に清水のアリバイなどを吉岡に任せて、二人で青木の元へと向かった。
 流石に春休み真っ只中なので、高校にいるのは当直の教師だけである。
 二人は、栗原から青木の住所を教えて貰い、そこへ伺った。場所はJR京浜東北線の東神奈川駅の近くである。
 呼び鈴を鳴らすと、青木はしばらくしてから出てきた。
「こんにちは、警視庁の……」
「武井警部ですよね。それから、小川刑事でしたっけ。」
 武井が名乗るのを遮る形で、青木が言った。
「はい、覚えていましたか。それはありがたい。」
「しかし、警部さんもひどいですね。25日に伺うとおっしゃったから、一応待っていたんですよ。結局来てくれませんでしたけど。」
「ごめんなさい。捜査の関係で来られなかったのですよ。」
「そうですか。ところで、今日は一体どういうご用件で。」
 二人を部屋に通すと、さっそく青木は聞いた。
 武井は小川と目を見交わしてから、話を切り出した。
「青木さんは、N商事の渡嘉敷部長をご存知ですよね。」
「はい、良く知っていますよ。」
 武井の予想とは裏腹に、青木からはすんなりと返事が返ってきた。
(否定はしないのか。)
 などと、武井は思いながら、
「彼とは一体どういう関係なんですか。」
 と、聞いてみた。
「どういう関係と言われても……。私はN商事から、研究に必要な物を購入していますので。」
「しかし、渡嘉敷部長は中央管理部で、薬品部の人ではありませんよ。」
「ええ、そうです。ただ、私は彼が薬品部に所属していた時からの仲ですから、お互い良く知っているんですよ。それに、長期休暇中には奥多摩の方で部屋を借りて、静かな環境で実験、研究をやらせて貰ったりもしましたから。」
「結構親しいということですね。ところで、最近の渡嘉敷さんの様子で不審なところなどはありませんか。」
「一体何故ですか。彼に何か問題でも……。」
「いえ、大したことはありませんよ。匿名の電話で、彼が一連の事件の犯人じゃないか、といったものがあったので、一応捜査の一環で聞いてみただけです。安心して下さって結構です。」
 と、武井は言った。
「そういうことですか。しかし、彼には動機がないから、犯人じゃないでしょう。」
 と、青木は平然と言った。
 二人は、青木が少しは動揺するものと思っていたが、全く虚を突かれた形となった。
(これはただの強がりなのだろうか。それとも、物的証拠を掴まれない自信なのだろうか。)
「まだ何とも言えませんね。ところで、少し別の話ですが、今川周平という人をご存知ですか。」
「……その人が、私と何か関係でも。」
 青木はそのように答えたが、武井は彼が一瞬狼狽したのを見逃さなかった。
「本当にご存じないのですか。恐らくあなたと親しい人だと思うのですけれど。」
「今川ですか。多分、高校時代の友人に今川という人がいたとは思います。」
「それは高校の同級生ということで……」
「いえ、アメリカに留学していた頃に会った人です。」
 武井の言葉を遮って、青木が答えた。
「最近は会われることはありますか。」
「いえ、全く音信不通です。大学に二浪したんですが、それ以来、今川とは連絡が取れません。」
「嘘は言わないで下さいよ。私たちは、あなたこそが今川周平だと思っています。」
 小川がそう言うと、青木は黙ってしまった。
「まだ、確証は掴めていないが、一連の事件に今川周平、つまりあなたが絡んでいるのは間違いない。必ず証拠見つけて、事件はくい止める心算だ。過去にどんな理由があろうとも、人を殺すことは許されない。だから、私は君を許す心算はない。覚悟しておきなさい。」
 と、武井にしては珍しく感情を顕わにして言うと、二人は青木の家を出て、警視庁へ戻った。

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