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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 3人は、渡嘉敷について調べていく内に、彼が行っていた汚職について知った。
 それは、汚職というより、犯罪そのものであった。
 既に15年以上も前のことであるため、時効が成立し、立件することは出来ないものであったが、渡嘉敷は東南アジアからの麻薬の密輸に携わっていたらしい。
 東南アジアの麻薬商人から、日本海上で麻薬を大量に受け取り、漁船に乗せて、石川県の寂れた漁村で下ろし、国内に持ち込んでいたのである。
 それらの麻薬は、暴力団に売り、渡嘉敷は多額の金を得ていたのだった。
 その頃、彼は既にN商事で働いていたが、当時は薬品部に所属していた。海外からの薬品の輸入を担当した頃は、それらの物資に紛れ込ませて、麻薬を密輸していたことも判明した。
 また、彼が麻薬を横流ししていた先の暴力団は、主に黒沢会であったらしい。つまり、渡嘉敷は黒沢会の内部状況にも詳しかったのである。
 当時から、彼は倉渡俊樹という名前を用いて黒沢会と交渉に当たっていたらしかった。
「やはり、倉渡の正体は、渡嘉敷ということになったな。」
「しかし、警部。そうすると、今回の一連の事件の首謀者は渡嘉敷ということになりませんか。」
「あくまで三村に元西襲撃の依頼をしたのが、事件の首謀者の場合だよ、ガワさん。青木が主犯で、渡嘉敷を通じて三村を動かしたかも知れない。」
「それでも私は、小川刑事の考えは間違ってはいないと思います。私が犯人側だとしても、最も安全な策として、自ら三村に依頼したと思いますね。」
 と、吉岡が言った。
「すると、確かに黒幕は渡嘉敷ということになる。青木や清水、それに鈴木までも、渡嘉敷の指示の下に動いていたということになる。」
「はい。捜査の根底から考え方を変える必要があるかも知れません。」
「だが、そのためには、今までに殺された松田、山口、近藤夫妻、中田の5人に対して、渡嘉敷が殺害の動機を持っている必要がある。大谷の殺害に関しては、証拠隠滅の為だから不問でいいだろう。」
「警部。やはり、渡嘉敷が行った汚職に関して、松田が何かしら知ってしまったのが原因ではないでしょうか。」
「しかし、ガワさん。そうすると、残りの4人の殺害の動機はどう説明するんだ。」
「松田を含めた5人は、宮田中の卒業後も交友関係が続いていたのは明らかです。その為、渡嘉敷の過去について知ったことを、松田が近藤らに話したのだと思います。」
「それなら、渡嘉敷はどうやってそれを知っ……そうか、清水か。清水を通して、松田が誰に自分のことを話したのかを把握したのか。」
「はい。恐らくそれしか考えようはないと思います。」
 と、小川は言った。
「でも、小川刑事。そうすると、清水もその内容を知ってしまったことになりませんか。つまり、渡嘉敷は清水も消す必要性があるのでは。」
 吉岡にそう言われて、小川は困ってしまった。確かに吉岡の言うことは、理に適っているのである。
「いや、もう一つ可能性がある。」
 と、武井は切り出した。
「一体なんですか。」
「中田だ。彼は最終的に殺されたが、途中までは犯人側だった、と私が思っていることは前に言ったと思う。だから、中田を通して、渡嘉敷は情報を得たんじゃないかな。」
「なるほど。確かにそれならば、中田を殺す必要に迫られますから、後に殺したことの理由付けにもなりますね。」
 と、小川は頷いたが、吉岡が、
「しかし、警部。中田が実際に犯人側だったという証拠は一つもありません。」
 と、反論した。
「それは分かっている。だが、今はその線で推測を立てていくしかないだろう。証拠は後から見つけていけばいい。ただ、問題は渡嘉敷がどのようにして青木を手懐けたか、だろう。」
 と、武井は言った。
「青木を揺さぶってみますか。」
 と、小川が気負い込んで言った。
「ああ、やってみる価値はあるだろう。早速だ、ガワさん。行こうか。」

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