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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「やはり渡嘉敷が一枚咬んでいましたか。」
 武井が電話を切ると、小川が期待を込めて聞いた。
「まだ確証はつかめないが、かなりいい線を行っているだろう。N商事の人間だと思うが、青木と接触していた。」
「それならほぼ決まりでしょう。」
「ただ、あくまで表面上は、N商事の薬品部という形だ。青木が化学科の教師であることを上手く利用している。」
 と、武井は言った。
 そのとき、武井の電話が再び鳴った。
「はい、もしもし。捜査一課の武井です。どちら様ですか。」
 岡部が何か言い忘れたのだろうか、などと思いながら、型通りの返事をすると、
「武井警部、お久し振りです。神奈川県警の杉山です。前に一度お会いしたと思いますが。」
 といった声が返ってきた。
「一体何かあったのかね。」
「実は、個人的に今回の事件に関して調べてみたんですけれども、犯人ではないかと思える人物が何人かいたので……」
 と、杉山は電話の向こうで、遠慮がちに言った。
「誰が犯人だと思ったのかい。」
「一人は、栗原さんの同僚の、青木修平という人です。」
「それなら、警視庁の方でもマークしているよ。しかし、どうして彼が犯人だと気づいたのかい。」
「それは、私が共犯者だと思うもう一人の人間から結びついたんですけれど、今から私が話す内容は、県警の方には絶対に漏らさないで頂けますか。」
「もちろんそれは構わないが……。」
「実は、県警の鈴木刑事が、元西さんが意識不明の重体だといったことを原口警部に話していたんです。しかし、県警の意に反して元西さんに捜査をさせていた警視庁が、そのようなことを漏らす筈はないと思ったんです。」
「つまり、鈴木刑事の身辺を洗ってみたということか。」
「はい。彼の経歴なども調べてみました。そうしたら、鈴木刑事は青木修平と高校時代の同級生だったんです。10日に最初の事件が起きた後、栗原さんが何者かに襲われています。そのときに第一発見者として、青木修平が事情聴取を受けた記録があったんです。」
「それで青木修平を疑ったわけか。」
「それから鈴木刑事も、です。恐らく、犯人グループと密通しているんじゃないかと思います。」
「そうか。どうも犯人側に先手を取られているので、内部に共犯がいるんじゃないかと思っていたが、県警の鈴木刑事の可能性があるのか。」
「それから、もう一つ青木を疑った理由があるんですが……。」
「それは何だい。」
「実は、10日に栗原は石川町駅を出て中華街に向かっていたんです。これは、石川町駅の駅員さんが証言してくれました。」
「……どういう意味だ。」
「栗原が発見されたのはN商事の前ですが、N商事は関内駅の方が近いんです。」
「何てことだ。」
 武井は自分の見落としに気づいて、つい声が大きくなってしまった。
「そうか。つまり、青木が栗原をつけて襲ったのか。そうしておいて、気絶した栗原をN商事の前に運び、そこで襲われた様に見せかけたのか。まんまと騙された。青木が館内方面に向かった理由を、栗原が近い方から来ると思ったから、と言っていたのを真に受けてしまうとは。てっきり栗原は関内駅から来て他の人に襲われたのを青木が見つけたのかと思っていた。それが分かっていれば、初めから青木をマーク出来たのに……」
 武井の一言ひと言には、悔しさが表れていた。
「……分かった。連絡ありがとう。これで捜査はかなり進展したと思うよ。鈴木刑事は君が動向を見ておいてくれないか。」
「分かりました。ところで、元西さんはどうですか。」
「まだ意識不明だが、心配はないと医師が言っていた。安心して貰って構わないよ。」
 と、武井は言って、電話を切った。
 しかし、実際のところは、元西の容態はまだ何とも言えない状況であった。
 武井は、ホワイトボードに鈴木刑事の名前を書きつけて小川と共に再び捜査に出ていった。

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