[携帯モード] [URL送信]

十五年越しの殺意(外村駒也)完
ページ:12
 その日の午後から、岡部は早速、青木の身辺を探り始めた。
 青木と接触した人を逐一確認し、怪しい動きがないかを観察した。
 一方の津野は、青木のアリバイの有無を確かめる為に東奔西走していた。
 その結果としていくつか分かったことがあった。
 10日に、意識を失って倒れていた栗原を助けたのは確かに青木であった。時間は午後8時過ぎ。このことから、青木が山口を殺すことは直接的には不可能であった。なぜならば、山口の死亡時刻は7時半前後。発見された場所は江戸川の河川敷である。
 しかし、見方を変えると青木にアリバイはないことになる。山口の直接の死因は、絞殺である。溺死ではない。そのため、10日の7時半頃に山口を殺害し、車のトランクに詰めておく。そうしておいて栗原を何食わぬ顔で助け、アリバイを作った後に、真夜中に江戸川へと行き、山口の死体を橋から落としたとも考えられる。
 また、松田殺しに関しては、彼のアリバイは全く無かった。5時頃に彼がどこにいて何をしていたのかが、何一つ分からなかった。この日は土曜日で、高校に青木はいなかった。
 だが、これらの推理には大きな問題点があった。
 青木は決して宮田中の同窓生ではない。
 その為、スカイビルで行われていた同窓会の場に、彼が居合わせることは出来なかったのである。
 すると、松田の殺害に関しては、同窓生の中にいた共犯者の内の何者かが手を汚したことになる。
 また、山口を同窓会の場から引きずり出すことも、青木の手では不可能なことであった。これもまた、共犯者が行ったと考えるのが妥当である。
 つまり、要約すると、10日に起こった2件の殺人事件に関しては、青木は直接的には関わってないのである。
 次に13日の件だが、この日は平日で、高校の授業があるために、青木は午後4時までみなと総合高校にいたことが確認された。これに関しては、同僚が証明している。
 その為、13日の午後4時までの青木のアリバイは完璧であった。
 しかし、逆に言うと、午後4時以降のアリバイは無い。
 つまり、近藤夫妻の誘拐は共犯者らの手によって行わせ、最終的に二人を殺害したのは青木の可能性もあるのだ。午後4時に横浜を出るとすると、自動車で高速道路をとばして、石川県の能登島に着くのは、早くても夜の10時を過ぎる頃である。電車に乗ってもこれ以上早く着くことは出来ない。それでも、二人が焼けた状態で発見されたので死亡時刻は信用出来ないため、青木に近藤夫妻の殺害は可能であったと考えられた。
 翌14日は、青木は朝の8時から高校にいることが確認された。
 このことから能登島を出たのは遅くとも14日の午前2時頃である。
 18日は、日曜日に当たるため、青木は高校の方にはいなかった。ただ、午前9時頃に横浜の映画館で、青木と彼の友人と思しき女性が映画を見ているところが目撃されていた。これは、チケット売り場の係員にも確認が取れた。
 しかし、中田が殺害された時刻は、午後2時頃と推定されている。つまり、これは青木のアリバイにはなっていないのである。青木が見ていた映画は、午前11時には終わるもので、それから奥多摩へ向かっても、時間的に十分間に合うのである。
 21日は平日だが、高校は春休みに入っている。しかし、青木は化学部の顧問として、みなと総合高校にいたことが分かっている。だが、時間は午前中のみである。又しても不完全なアリバイであった。
 殺害された大谷の死亡時刻は、午後4時。青木には十分に殺す時間があったと考えられる。
「ガワさんはどう思うんだ。」
 津野からの報告を受けて、武井は小川に聞いてみた。
「どのアリバイも曖昧なものばかりです。15年間復讐に燃えた人間としては、準備が足りないような気もします。」
「私も同感だよ。やはり、彼は自分が今川周平であると、見破られない自信があったんだろう。だから、多少アリバイがなくても問題は無いと踏んだに違いない。」
「はい。それに、私たちが分かったのはアリバイだけで、実際に青木が犯罪に関与したか、という物的証拠は出ていませんしね。」
「とにかく、私たちは、共犯者を早く確定しなければならない。青木が関わったかは、津野と岡部が何とかしてくれるだろう。」

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!