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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「また刑事さんが何の用ですか。」
 武井と小川を迎えた栗原は、嫌悪感を顔に表して言った。
「初めまして。警視庁捜査一課の武井と申しますが、実は栗原さんにお伺いしたいことがありまして。」
「一体何ですか。いまさら僕に聞くことなんて無いでしょう。」
「まあまあ。まず話を聞いてからにして下さい。上がっても構いませんかね。」
「どうぞ。」
 栗原はぶっきらぼうに言うと、二人を家の中へ通した。
「何故、警視庁の方が、わざわざ僕の所へ質問しに来るんですか。神奈川県警の方だと思いましたよ。」
「まずは一つ、栗原さんに私どもの方からお詫びしたいと思ったからです。」
「別に警視庁の方に謝って頂かなければならないようなことは無いと思いますけど。」
「いえ、そんなことはありません。警察側の捜査のミスであなたを犯人扱いしてしまったこと、それから、近藤夫妻を殺害されてしまったこと、本当に申し訳ありません。」
 武井が謝ると、栗原は目を白黒させていた。
「一体どうしましたか。」
「……警察の方に謝って頂いたのが初めてだったので。神奈川県警の方は、僕が犯人に違いないと言った態度で、釈放のときも何も言われなかったんですよ。だから、なんとなく不自然な感じがして。」
 どうやら、栗原の警戒心も解けたようである。顔に表れていた嫌悪感も既に消えていた。
「ところで、栗原さん。あなたは10日の夜に、何者かに襲われましたね。その時のことで何か覚えていることはありますか。」
 栗原がコーヒーを淹れて持って来てくれたとき、武井はいきなり聞いてみた。
 栗原は、自分で淹れたコーヒーを啜りながら、考え込んでいるようだった。
「些細なことで構いません。例えば何か言っていたとか。」
「……あまりよく覚えていないんですけど、後頭部を強打されて倒れたときに、二人の人が立っていたような気がします。」
「男性か女性かは分からないですかね。」
「多分男性だと思いますけど、おぼろげな意識の中で見えたので自信はないです。」
「どちらへ向かっていた時でしたか。」
 と、今度は小川が聞いた。
「同僚の青木と中華街で飲みに行こうという話になっていたので、行き付けのバーに向かっていた途中でした。」
「それは前々から予定していたことなのですか。」
「いえ。スカイビルで事件に巻き込まれたので、何とかアリバイが出来ないものかと考えて、急遽入れた予定です。」
「しかし、松田殺害後にアリバイをいくら作っても意味はありませんでしたよ。」
 と、武井は苦笑して言った。
「しかし、あの日は全てがパニックでしたから、そこまで頭が回らなかったんですよ。何とか自分が疑われないように、という一心でしたから。」
(やはり、この人は根っからの正直者だな。)
 と、武井は思った。
「あなたが襲われた後、誰が見つけてくれたんですか。」
「さっきも言った同僚の青木です。約束の時間になっても僕が現れないので、心配して探してくれたんでしょう。」
「そうですか。今日はどうもありがとうございました。」
「え、聞くことはこれだけなのですか。」
「はい。また何かあったらご協力お願いします。」
「それはもちろん構いませんよ。」
 と、栗原は笑みを見せて言った。
 武井と小川の二人は、栗原の家を後にして、彼の同僚だという青木の元へと向かった。

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あきゅろす。
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