十五年越しの殺意(外村駒也)完 ページ:8 翌日、武井は小川を連れてN商事の本社へと向かっていた。中央管理部部長の渡嘉敷と会うためである。予め前日に会うことは告げていた。 「警部、元西さんも連れて行くんじゃなかったのですか。」 「いや、その心算だよ。彼には別行動を取って貰っているんだよ。」 「というのは、後々合流するということですか。」 「まあ、後での楽しみにしてくれ。」 と、武井は言った。 「ところで、ガワさん。あの名簿に栗原の名前があった事についてだが、県警には知らせない方向で行こうと思うんだが。」 「私は構いませんが、どうしてですか。情報は共有した方が、捜査がしやすいんじゃありませんか。」 と、小川は聞いた。 「確かにそうだが、この情報を県警側が得たら、また栗原犯人説が勢いを増すんじゃないかと恐れていてね。」 「しかし、あの名簿は、栗原が犯人の可能性を暗に示しているんじゃないんですか。」 「そう捉えることも出来なくはないんだが、私は栗原が犯人じゃないと確信しているよ。」 「それはなぜなんですか。」 「何故、と言われてもこれは私の勘でしかないよ。」 と、武井は笑って言った。 「警部が勘で事件を見るなんて非常に珍しいことですね。いつも感情は入りませんから。」 「そうかな。ただ今回の事件に関しては、栗原が犯人であるには無理があるんじゃないかなと思ってね。親友が誘拐されたと聞いて涙を流すのは、犯人だったら出来ないと思うよ。特に今回のような残忍な犯人の場合はね。」 と、武井は厳しい表情に戻って言った。 その時、二人は遠くの方から声を掛けられた。見ると、元西がN商事の門の前で待っていた。 「どうだったかい、元西君。話の方は聞けたかい。」 「あまり上手くいきませんでした。まあ、詳しくは後で話します。」 「一体どういうことですか、警部。あまり状況が分からないのですが……」 と、小川が困惑した顔で言った。 「なあに、後で訳は説明するよ。まあ、今はとにかく中に入ろう。早くしないと約束の時間に遅れるからね。」 と、武井は言った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |