[携帯モード] [URL送信]

十五年越しの殺意(外村駒也)完
ページ:11
 二人の目の前には、悪臭の原因が横たわっていた。
 そこには、既に人の形を成していない人が二人、床に転がっていた。あまりにも無惨な肉の塊である。辛うじて、性別は男と女とだけ分かる。
 悪臭の原因そのものは、二人の人の焼けた臭いだった。しかし、人の形を成していないのは、焼けたのが元ではなさそうだった。火自体は、それほど大きくなかったのか、激しく焦げてもいなかった。明らかに、死因は一酸化炭素中毒でもなく、焼死でもなかった。
 一体どう表現したら良いのだろうか。彼らの四肢は、胴体から切り離されていた。切り口が平らなのからすると、チェーンソーか何かで切ったのだろうか。その四肢すらも、不自然に曲がり、所々肉片が削ぎ落とされているのが分かる。
 男の死体の方は、腹部に大きな穴が開いていた。そこから内臓らしき物がはみ出し、それさえも所々切り裂かれていた。背骨が粉々になっているのも分かる。肋骨のうちの何本かは、心臓に直接刺さっているらしい。
 それだけでは無かった。頭部に目をやると、脳天がぱっくり割れていたのである。中からは、脳漿が出ていた。そもそも、頭自体がひしゃげていたと言うべきか。
 また、余程ひどい衝撃を受けたのか、眼球は両方とも飛び出し、片方は潰れていた。
「……なんて事なの……」
 吉岡が、蚊の鳴くような、聞き取れないほどの声で言った。
 岡部のほうは、既に吐きそうになっている。口に手を当てて、目を死体から背けていた。
「……一度、七尾署に戻った方が、良さそうね……」
 吉岡は、そう言ったものの、足がどうしても動かなかった。
 確かに捜査一課という仕事柄、今までも凶悪犯罪を扱ったことはあった。しかし、ここまで人間の身体は破壊できるものなのか、と思わずにはいられなかった。何よりも、ここまでして殺そうと思い立つだけの憎悪というのは何処から出て来るのだろうかと、吉岡は考えていた。
 二人は能登島を出て、捜査本部の七尾署へと直行した。
 車の中では、二人は一言も声を発しなかった。発せない心理状況だったのだろう。
「……大倉警部補はいらっしゃいますか。」
 七尾署に着いてすぐ、岡部は魂が抜けた様な声で聞いた。
「ああ、君たちか。一体どうしたのかね。」
 大倉本人が出てきて言った。
「……二人の男女の死体を発見しました。今すぐ、能登島へ一緒に来て下さい。」
「何、死体だと。例の、近藤夫妻か。」
「そうじゃないことを祈りますが……」
 吉岡が言ったが、心の底で、近藤夫妻以外にはありえないと感づいていた。
「分かった。今すぐ向かおう。」

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!