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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 武井と小川が、警視庁の近くのカフェに入ると、奥の方に元西がいるのが見えた。だいぶ深刻そうな顔つきをしていた。
「久しぶりだな、元西君。」
「こんにちは。わざわざありがとうございます。」
「一体何があったんだい。」
 と、小川が聞くと、元西は次のように言った。
「実は、今日先ほど、県警の方に、辞職願を出してきました。」
 武井と小川は揃って目を丸くした。
「なぜ、君のような逸材が、県警を辞める必要があったのかね。私は、君の洞察眼はすばらしいと思っているのだが。」
「県警の原口警部と衝突しまして、向こうの捜査方針にはどうしても従えないので辞めたまでです。」
「……そうなのか。しかし、ほんとに勿体無いな。これからはどうするつもりだい。さすがに、うちで雇うことは出来ないよ。」
「はい。一応、私立探偵をやろうと思います。警察で手が回らないことがあったら、僕がやりますよ。」
 と、元西は胸を張って言った。
「ずいぶんと頼もしいな。しかし、警察の面子もあるから、そう簡単には民間人に頼めないよ。まあ、とにかく頑張ってくれよ。」
「はい。ところで、実は、こちらの方が重要なのですが、松田の高校時代にあった事を一つ掴んだんです。おそらく、今回の事件の動機にも成り得るものです。」
「一体何か分かったのかい。」
 小川が身を乗り出すようにして聞いた。
 元西は、緑ヶ丘高校を伺ったことから、かつての同級生に聞いた話など、この2日間で得た情報をすべて、武井と小川の二人に伝えた。
「……という訳なんです。確かに、15年前の事件の犯人が松田だったとは言い切れないのですが、今回の犯人がそうだと信じ込んでいて復讐を行ったものと考えられないでしょうか。」
 ここまで話を聞いて、武井は改めて元西のずば抜けた洞察力に恐れ入っていた。そして、自分の勘を頼りに情報を引き出した彼の行動力にも、である。
「松田に、そんな過去があったとは知らなかったな。これは、かなり検討の余地がありそうだ。いや、捜査方針ごと変えなければ。報告してくれてありがとう。」
「いえ、僕はただ武井警部ならきっと話を分かってくれるだろうと思っただけです。」
 と、元西は言った。
「しかし、やはり元西君の才能は惜しいな。内密にだが、君にも捜査の協力をしてもらおう。私立探偵なら、縄張りは無いから、警察のような行動制約もかからないだろう。」
 元西は、武井のこの急な提案に目を丸くした。確かに、この事件についての捜査は、個人的に続けるつもりではあったが、まさか、警視庁の現職警部に頼まれるとは思っていなかった。それも、数々の事件の解決してきた、凄腕の武井警部に、である。
「本当にいいんですか。武井警部の力だけでも、ここまできたら解決できるんじゃありませんか。」
 と、元西は聞いた。元西は、武井のさっきの言葉に対して、半信半疑のようである。
「なに、私も大して優秀な訳ではないからね。ぜひとも君の力を借りたいと思っているよ。」
 元西は、武井のことがますます気に入った。警察の中には、自分の実績を豪語し自慢する人も多数いる。例えば、石川県警の大倉警部補のような性格の人である。そんな機関に身を置いているのにもかかわらず、謙虚な姿勢の武井は、やはり珍しい方かもしれない。
「分かりました。僕なりに全力を尽くしてみます。本当にありがとうございます。」
「私も、上司の方にこの事を伝えよう。捜査方針を変えなければいけないからな。」
 事件はやっと一歩、解決の道筋が付いたのである。

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あきゅろす。
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