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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 今回、同窓会で使われるこのレストランは、小部屋が八つと、大広間が一つあるらしい。栗原は、特に誰にも話しかけられず、幾分暇だったので、その中の一部屋へと入った。と、次の瞬間電気が落ちた。
「一体なんだ。」
周りが騒がしくなってきた。ブレーカーが落ちている、と誰かが叫んでいるのが聞こえた。電気が落ちたのは、この階だけではなく、スカイビル全体の配電盤が支障をきたした、と小声で話すのも聞こえた。
しばらくして、バチッという音とともに光がついた。そのとき、栗原は何が目の前で起こっているのか一瞬分からなかった。
「う、嘘だろ……。」
 目の前には、背中にナイフを突き立てられ、テーブルに突っ伏した状態で松田が倒れていた。後ろを振り向くと、ドアは閉まっていた。最悪の状態だと、栗原はとっさに悟った。栗原は次第に、顔から血が引いていくのを感じた。
「このままだと、俺が犯人にされちまう。一体どうしたらいいんだ。」
 栗原は、ドアに耳を近づけ、外の様子をうかがってみた。案の定、さっきの停電で、廊下はかなり騒がしくなっている。栗原は考え込んだ。
(ここで、俺が人ごみにまぎれて外に出て、大丈夫なのだろうか。もし気づかれたら、間違いなく俺が殺したと思われる。やはり逃げるべきなのだろうか。それとも、素直に事情を話してたまたまだと弁解したほうが良いのだろうか。)
 そこまで考えて、栗原はハッとした。殺されているのは松田だ。事態はますます最悪である。今でこそ二人の仲は悪くはないはずなのだが、中学時代に、二人は彼女のことで大喧嘩をして、栗原のほうが全治一ヶ月の骨折となり、彼女も松田にとられた過去があるのだ。それを知る人が見れば、栗原の心証は完全にクロである。
(とにかく、まごまごしているとまずい。一か八か外に出てみるか。)
 栗原は、タイミングを計ってドアを開け、廊下に出た。中にいた間にだいぶ人が集まってきたようだ。廊下は人でごった返している。そろそろ同窓会が始まる頃合だ。ここまで来て、始まる前に帰ったら、どう思われるのだろうか。栗原の頭の中では、そんないろんなことが飛び交っていた。
(理由は後からいくらでも言える。とにかく今は気づかれずに帰ることが先決だ。)
 そう心に決めて、エレベーターの方に向かおうとした矢先、後ろから肩をたたかれた。びっくりして、栗原は後ろを振り向いた。
「やっぱり栗原じゃあないか。」
「や、山口じゃないか。」
「もしやと思って声をかけてみたんだが。どうしたんだい、汗だくじゃないか。」
 と、山口は疑わしそうに言った。
「な、なあに。大したことはないさ。いつも暑がりだからね。」
「ところで、どうしてそっちに行くんだい。広間はこっちだぜ。」
「……ああ、それなんだが、実は少し大事な用があるのを思い出してね。近藤と会うのが一番の目的だったから、今から帰ったほうがいいかも知れないと思ってさ。」
 と、栗原は言った。
「そうか、それは残念だな。」
「ああ、まあそういう訳だから、じゃあな。よろしく言っておいてくれ。」
 山口と別れてエレベーターに乗ると、栗原の背中からは、どっと汗が噴き出してきた。
「危なかった。部屋を出た瞬間だったら、間違いなく俺が怪しまれただろうな。」
 栗原は、スカイビルを出ると、横浜駅へ向かい、根岸線に乗って石川町へ行くことにした。電車を駅で待っている間に、彼は同じ高校に勤める青木修平へと電話を掛けた。
「もしもし、青木か。今時間あるかい。」
「ある、っちゃああるけど、いったいどうしたんだい。」
 と、青木が言った。
「いや、特になんでもないが、一緒に飲みにいかないかい。」
「まだ5時半だぞ。いくらなんでも早過ぎやしないか。」
「うーん、まあな。今すぐじゃなくても良いから来れないかい。」
 と、栗原は粘って言った。
「8時ぐらいなら行けるかもしれないが…。」
「もう少し早くは、無理か。」
「どうしたんだ。いつもの栗原らしくないぞ。何かあったのか、いや、絶対何かあっただろ。」
「べ、別に何も無いよ。何も気にするな。分かった、じゃあ8時に中華街のいつものところに来てくれ。」
 そういって栗原は電話を切った。
(不審に思われなければいいんだが……)
丁度大船行きの電車が来たので、彼は乗り込んだ。時間つぶしのために、横浜スタジアムでソフトバンク対ベイスターズの試合を見ることに決め、関内で降りた。彼の頭の中は、ただどうにかして疑われないようにするということでいっぱいで、そのとき彼の後ろをつけていた二人には、全く気づく気配すら見せなかった。


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