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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 その頃、原口の部下の丸山刑事は、N商事の本社にいた。彼は、原口警部の命令で、N商事のころの松田について聞き込みなどを行っていた。しかし、思ったほどの結果は得られなかった。確かに、警視庁からの報告のとおりで、会社においての松田の印象としては、非常に良かった等の返答しか受け取れなかった。それもその筈である。既に亡くなった人間についてとやかく言うのが好まれる筈が有ろうか。丸山は、十何人目かで、ようやく手応えのある反応を受け取ることができた。
「松田先輩は、結構けちな人でしたよ。」
 と、その社員は言った。
「他の課長さんなんかは、いろいろ奢ってくれたりするのに、先輩だけは一度も奢ってくれたことが無いんです。ただそれだけならまだ良いんですが、部長なんかが奢ってくれるときには必ず顔を出すんですよ。身勝手といったら良いんですかね。あ、今言ったことはくれぐれも内密にお願いしますよ。松田先輩は、あれでも一応人気と人望がありましたからね。」
「身勝手なのに、人気と人望が有ったんですか。」
 と、丸山刑事は聞いた。
「ええ。まあ、何と言っても頭脳明晰で、会社には尽くしていた方ですからね。それと、彼の後ろに付いているだけで、自分の出世も約束されたようなものでしたから。」
 やはり、会社内での関係は、完璧とまでは行かなかったのである。しかし、松田の人望が厚かったことは、丸山をいくばくか意気消沈させた。多少の身勝手だけでは、殺人の動機にはなり得ないからである。


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あきゅろす。
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