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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「ガワさん、例の遺体の身元は割れたかい。」
 と、武井警部は聞いた。ここは、江戸川での死体に関する捜査本部が設けられている、亀戸署である。
「それが、見事に身元とつながりのある物品が無いので、困り果てているところです。」
「うん、そうか。じゃあ、一緒にラーメンでも食べながら考えようじゃないか。」
 そう言って、武井と小川は近くのラーメン屋へと向あかった。捜査に行き詰ったときの、二人の癖である。
「最近は複雑な事件ばかりで、これじゃあラーメンづけの毎日ですね。」
 と、小川刑事が言った。
 二人がラーメンを食べ始めてすぐ、武井警部の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし。ああ、吉岡君か。どうした。」
「警部、今どちらにいらっしゃいますか。」
 と、吉岡が電話の向こうで言った。
「署を出てすぐのラーメン屋だが、どうした。」
「神奈川県警から 二人の刑事さんがこちらに来ています。何でも、警部に話があるそうです。」
「そうか、わかった。今すぐ行くよ。」
 二人の刑事は、やや落ち着かない様子で、亀戸署の待合室にいた。
「初めまして。神奈川県警の元西と杉山です。」
「こんにちは。元西君、君のことは聞いているよ。ここの捜査四課に勤めていたらしいね。私が武井だが、いったい何の用でこちらへ。」
「それが、先日、松田隆文の経歴について調べていただきましたが、その件の事件で事情聴取をしようと山口の家へ行ったのですが、本人はいなくて、扉は開いているし、部屋の中がだいぶ散らかっていたんですよ。荒らされたのか、単に荒れていたのか判断がつかなかったのですが、一応武井警部に知らせた方がいいのかなと思って。」
 と、元西が言った。
「山口の家がもぬけの殻だったということですね。」
「はい、そうです。」
「山口の写真か何かはありませんか。」
 と、武井が聞いた。
「はい、この人物です。」
 杉山はそういって、山口の写真を武井に渡した。
「彼が山口か。ん、どこかで見たことがある顔だな。おーい、ガワさん。ちょっとこっちに来てくれないか。」
 武井がそういうと、少しして奥から小川刑事が出てきた。
「どうしたんですか、警部。」
 と、小川が言った。
「この人なんだが、どこかで見たことは無いかい。」
「うーん、何となく見たことがあるような気がするんですが……。あ、思い出しました。江戸川の河川敷の死体じゃないでしょうか。」
「ん、本当だ。なんてことだ。あの死体が、この山口だったって言うのか。とすると、スカイビルの事件とつながりがあるかもしれないな。捜査の方針から変える必要がありそうだ。福田課長に話してみるよ。」
 と、武井が言った。
「ちょっと待ってください。一体どういうことなんですか。」
 と、元西が聞いた。
「まさか、肝心の山口はすでに死んでいると言うんですか。」
「ええ、恐らくそういうことになります。」
「山口の死亡時刻と死因は分かりますか。」
 と、杉山が質問した。
「ああ。検死官の話だと窒息死だそうだ。首に紐で絞められた跡が見つかったらしい。その後に江戸川へ放り込まれたと見て良さそうだ。死亡時刻は3月10日午後7時半前後だが、心当たりは県警のほうにあるかい。」
 と、武井警部が言った。
「7時半ですか。まだ何とも言えないです。容疑者として、栗原将史30歳を勾留しているところですが、アリバイははっきりしていません。一応、松田隆文殺害に関しては、彼が殺したということは間違いなさそうだという風に、原口警部が判断したのですが。とにかく、一刻も早く県警に戻って山口の件を伝え、合同捜査という形をとってもらおうと思っています。」
 と、元西は言った。
「そうしてくれると、こちらとしても有難い。私も刑事部長に話を通してくるとしよう。」

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あきゅろす。
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