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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 最初の一週間は、渡嘉敷はそれこそ一言も発しなかったが、周りが自供を進めていくのにつれて、だんだんと口を開くようになっていた。
「……全ては、15年前に始まったんだ。俺が大学を中退してN商事の薬品部に入社した当時、俺は心からやつれていた。自分の生きる楽しみさえ湧かなかった。気がつけば、薬物に手を出していたんだ。」
 渡嘉敷は初めにそう切り出した。
「初めは量も少なかったが、徐々に増えてきて、同時に暴力団との繋がりも強まってしまった。彼らは、俺がN商事の薬品部であることを利用して、海外からの輸入薬品の中に、麻薬を紛れ込ませることを俺に求めてきた。俺は既に、薬物に恐怖を覚えていたから、自分が麻薬を止める協力をして貰うことを条件に承諾した。俺の薬物中毒は、半年もすると何事もなかったかのように治まった。一方、麻薬の密輸は依然として続いていた。それから2年ほどして、俺はある警官と揉めて、そいつを無意識の内に殺してしまった。そのときに、もう一人の警官に、厳密には刑事だが、彼に見られてしまった。そいつが鈴木だ。鈴木は俺だと知って、全てを隠し庇ってくれたんだ。」
「そのときの死体は、奥多摩に埋めたんだな。」
「やはり、知っていたのか。」
 渡嘉敷の表情に、驚きの色は見えなかった。
「ああ。君たちを逮捕する前日に、津野君がやっと掴んでくれたんだよ。」
「こういった過去があると踏んでいたのか。」
「なぜなら、麻薬の密輸に関しては、警察記録にあった限りでは、時効を過ぎていたから立件不可能だった。それでも事件を起こす動機は、時効が継続中の事件を起こしていたという証拠だろう。」
「その通りだ。そのときを境に、麻薬の密輸からは足を洗った。ちょうど、薬品部から中央管理部に異動になったからな。だが、俺の頭から当時のことが消え去ることはなかった。俺は常に、事件を隠そうとした。だが、あるとき密輸に関する資料が、中央管理部のデータに混ざってしまったんだ。その日を境に、俺は事件が発覚したときの為に、証拠隠滅の為の事件を起こす準備を始めた。出来ればこんなことになって欲しくはなかったが、案の定2年前に、松田という男に全てを知られてしまったんだ。それで、俺は今回の計画を立てた。今回と言っても、松田殺害計画のみだ。その為に、青木修平という人間を見つけ、彼に15年前の事件の虚構を意識付けさせた。」
「だが、予想外のことに、松田の友人たちに全てが漏れてしまったという訳か。」
「そうだ。だから俺は急遽、6人全員を殺す計画に切り替えた。それが、今回の一連の殺人事件だ。」
「大谷の殺害に関しては、警察に資料が漏れるのを防ぐ為なのか。」
「それもあるが、栗原に再び目が行くようにしたかったんだ。結局失敗したがな。別荘の資料に栗原の名前があるから、うまく疑ってくれると思っていたんだ。」
「あいにく、私たちは彼が犯人でないと確信していたのでね。」
「残念だったよ。武井警部、あなた一人に俺の計画は破られた訳だ。」
「君は知らなかったのか。」
 と、武井は聞いた。
「……何がだい。」
「犯罪者側の計画が成功するときは、警察が捜査に失敗したときだけだ。」
「証拠が何もなければ、捜査のしようがないだろ。」
「それは違う。どんな事件にも証拠は必ず残っている。犯人がそれに気づかないだけの話だ。どんな犯罪でも、いつかは暴かれるんだ。」
「暴かれない事件だってあるだろう。時効切れなんて数多くあるじゃないか。」
「君はそうやって、また15年間、事件の真相の発覚に怯えて、また新たな犯罪を繰り返す心算だったのか。」
「今回は自信があった。」
「犯罪者は誰でも同じことを言うんだ。特に、複雑怪奇な事件や連続殺人事件の犯人はね。」
「……だが。」
「君も分かっているのだろう。犯罪は何も生まないと。青木と初めて会ったときに、感じたんじゃないのか。だからこそ利用した。しかし、もう結果は出たじゃないか。君たちが間違っていたんだよ。」
「だから、青木は自分から事件に乗ったんだ。」
「馬鹿者。まだ、そんなことを言うか。」
 武井が珍しく怒鳴った。
「人の心を弄ぶ者は、それだけで犯罪者だ。君は、青木の心の弱みに付け込んだ、犯罪者なんだ。」
 武井はそう言い捨てると、渡嘉敷の前から立ち去って行った。

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あきゅろす。
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