[携帯モード] [URL送信]

十五年越しの殺意(外村駒也)完
ページ:5
 渡嘉敷の前に、青木が呻き声をあげて倒れた。
 だが、それと同時に渡嘉敷も、右腕を抱えて床に倒れ込んだ。
「そこまでだ。誰も動くんじゃない。」
「……っ、誰だ。」
 渡嘉敷が辛うじて声を絞り出す。
「警視庁捜査一課の者だ。」
「……武井警部と、小川刑事か。いったいどこから入った。」
「そんなことを構っていられる余裕があるのか、鈴木。拳銃を床におけ。」
 そう言って、小川は銃を鈴木の方に向けた。
「君たちの会話は、部下に命じて仕掛けさせた盗聴器からすべて聞かせて貰ったよ。もちろん録音もしてある。」
 と、武井は言うと、手元の録音機を示した。
 後ろから入ってきた岡部が、青木と渡嘉敷のもとに駆け寄る。
「警部。二人とも大丈夫そうです。青木が撃たれたのは胸ですが、防弾チョッキを着ているので、肋骨が数本折れた程度でしょう。渡嘉敷は手首なので無問題です。」
「分かった。岡部君は救急車を二台、手配してくれ。渡嘉敷、あなたを殺人未遂の罪で、現行犯で逮捕する。」
「……」
 渡嘉敷は完全にうなだれていた。
「鈴木と瀧澤、君たち二人は任意同行という形をとって貰う。青木は、いったん病院で治療した後、事情聴取の為、署まで同行を願う。」
「一つだけ聞いても良いか。」
 と、鈴木が武井に向かって言った。
「何だね。」
「どうして青木がここへ来たことが分かったんだ。」
「青木がこの2日間、渡嘉敷について調べて回っていたが、それを津野君に張って貰っていたんだ。だから、青木が真実を知って、渡嘉敷を殺そうとすることは、予測がついていた。」
「だが、それが今日とは限らなかっただろうし、先に瀧澤を狙うことだって考えられたじゃないか。」
「君がここへ来たからだよ。それで確信した。」
「どういう意味だか……」
「君たちは今まで、お互いに直接の接触を避けてきた。それが突然、一カ所に集まろうという動きを見せたんだ。これは、君たちが青木を殺す為にとった行動だと思った。渡嘉敷は、青木をおびき寄せるために、一同に集まることを考えた。そうすれば、青木が絶好の機会と判断する、と思ったからだろう。」
「……それで確信を持ったのか。皮肉な話だ。青木は俺たちの懐に自ら飛び込むほど馬鹿じゃない、とお前が考えると判断して、俺が提案したんだ。逆に、現場を突き止められるとはね。」
「正直、君たちの高飛びの可能性も考えはした。つまり、青木はもう死んでいる可能性をね。だが、清水を呼ばなかったから、そこで高飛びの可能性は消したよ。しかも、銀行員に聞いたら、人を一人運び入れたとまで言う。青木がいることが確定だ。」
「流石だな、武井警部。もう俺たちはお手上げだ。あんたが数枚も上手だったよ。」
 鈴木はそう言うと、嘲笑気味に警察車両の後部座席に入った。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!