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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「……渡嘉敷。お前は俺に隠し事をしていたな。」
「一体何のことだ。いきなり訳が分からないぞ。」
「お前は15年前の件から、全て俺に嘘をついて来ただろう。」
「笑わせるな。俺がお前に伝えてきたことは全て事実だ。お前も自分で調べたんだろう。松田、近藤夫妻、中田、山口、栗原。誰一人としてアリバイはなく、一様の証言をしていた。しかも、緑ヶ丘高校以外の生徒も含まれているのに、証人になっているではないか。事件の当事者だったと言うにはまだ何か足りないのか。」
 と、渡嘉敷は自信満々に言った。
「ああ、足りないさ。俺は火曜日に週刊誌が発刊されたときに、いろいろ疑問に思って調べたんだ。そうしたら、お前の汚職は事実だったそうじゃないか。」
「別にそんなのは関係ない。なぜなら俺には動機がない。少なくとも、週刊誌が出回った以上、これが自分の為の事件なら、俺は手を引くだろう。だが、今回の事件は、お前の復讐のために力を貸しただけだ。違うか、青木。いや、あえて今川と呼ばせて貰おうか。」
「ああ。俺も今まではそう思ってきた。俺自身の意思で行っている復讐だと。だが、やはりどうも違うみたいだな。」
 と、青木は言った。
「ほう。是非ともお前の話が聞いてみたいな。」
「お前は瀧澤について、ただ単に能登島での校舎の手配をして貰う為に雇った、と言っていた。だが、瀧澤は愛奈の同級生だったとは聞いていなかったぞ。」
「それが何か問題でもあるのか。」
「ああ、大問題だ。俺は瀧澤について調べさせて貰った。そうしたら、瀧澤は清水とも繋がりがあったじゃないか。しかも、かなり親密な間柄だったそうじゃないか。一方、愛奈を殺したとされていた松田に対して、清水は感情を寄せていた。これはもしや、と思ったが、案の定そうだった。愛奈を殺したのは、瀧澤じゃないのか。」
「……推測にしか過ぎないだろう。」
「だが、警察が見逃していた証拠もあった。当時の捜査に参加していた刑事さんから聞いたぜ。松田の物と断定されたボールペン。あれには松田の指紋しかついていなかったらしいな。」
「だから松田の物なのだろう。」
「警察の考え方はその通りだった。だが、あのボールペンには指紋を拭いた跡はなかったが、松田の指紋が不自然な掠れ方をしていたらしいじゃないか。そう、そこには瀧澤の指紋がついていたんだ。無指紋の瀧澤の指紋がな。」
「……無指紋だと。」
「そうだ。それが生れ付きのものか、犯行直前に溶かしたものかは知らない。だが、今も瀧澤の右手には、指紋がないんじゃないのか。」
「……また推測か。」
「いいや。証拠は俺が持っている。近藤夫妻を殺したときに、俺は瀧澤を通して拳銃を渡された筈じゃなかったのか。もちろん、お前か鈴木の物だろうけどな。だが、そこにも指紋は付いていなかった。素手で受け取ったにも関わらずだ。だから、瀧澤に指紋は付いていない。」
「なかなか大した証拠じゃないか。よく揃えたな。」
「ああ、俺も苦労した。武井警部の話を聞いて、調べてみようという気を起こしたが、正解だったよ。まさか、敵が目の前にいるなんてな。」
「敵とはよく言ってくれる。君の協力を……」
「自分の為だろう。」
 渡嘉敷の言葉は、青木にかき消されてしまった。
「お前、誰か殺したんじゃないのか。大方、麻薬の取引の過程上で、暴力団の抗争にでも巻き込まれたのだろう。」
「ほう。ずいぶんと賢くなったな。お前と会った10年前は、見るからに頭の悪そうな熱血漢だったからな。」
「俺の過去を知ってて近づいたのか。」
「当たり前だろう。お前が妹の復讐の為に、死んだ男の名前を借りてまで生活していることなど、分かりきっていた。お前なら、何の疑いもなく人殺しに手を染められることは予想していた。」
「どこで俺の過去を知った。」
「お前は瀧澤と俺の関係について何も知らないのか。」
「……お前たちの関係だと。」
「ああ。俺たちは異母兄弟なんだよ。血が半分は繋がっているんだ。知らなかったろう。」
 渡嘉敷の言葉に、青木は目を見開いた。
「15年前の事件に関して、嘘をついたのは、やはり俺を動かすためだけじゃなかったか。弟を庇うことも予定内という訳か。」
「当然だ。いや、しかし、妹思いの優しい兄は、非常に扱い易かったね。」
 渡嘉敷はそう言うと、声を上げて笑った。
「……貴様、ただ済むと思って……」
「そうだ。お前に面白いものを見せてやろう。少し待っていろ。」

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あきゅろす。
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