十五年越しの殺意(外村駒也)完 ページ:10 「昨日、青木と遭遇したんですか。」 翌朝、小川と会った武井は、前の晩に起こった出来事をありのままに小川に話していた。 小川は顔を真っ青にしている。 「ああ、下手をしたら撃ち殺される所だったよ。背中に銃を突きつけられていたからね。当の私は丸腰だったから、正直、全身冷や汗でいっぱいだったね。」 「私に言ってくれれば、側に張り付いていられましたよ。」 「そんなことをすれば、かえって青木を挑発することになる。」 と、武井は言った。 「十分挑発になっていましたよ。週刊誌の件でね。だって、激昂していた訳でしょう。」 「いや、意外と初めは落ち着いていたよ。渡嘉敷の件に話が移ったときに、かなり感情が高ぶっていたみたいだ。」 「すると、警部の予想通り、青木は渡嘉敷に対して、恩のようなものを感じていそうですね。」 と、小川が言った。 「ああ。だが、これで青木が渡嘉敷に疑念を抱けば成功だ。あとは、二人の監視を強めて、接触する現場に、必ず我々が張っていられるようにすればいい。」 「武井君はいるかい。」 二人の会話の最中に、福田捜査一課長が武井のもとに来た。 「少し話があるのだが……」 「ええ、構いませんよ。ガワさん、ちょっと待っててくれ。」 武井はそう言って、部屋を出た。 「実は、神田部長が君を呼んでいたんだが、今回に関しては私から話をしようと思ってね。」 「今回というのはどういうことですか。」 「君は昨日、青木修平と接触したんじゃないのかね。」 「いえ。相手は今川周平と名乗っていました。」 と、武井は言って、笑った。 「どちらでも同じことだと言ったのは、君の筈だが。」 福田も武井につられて苦笑している。 「ええ。そうでしたね。」 「それで、やはり会ったんだな。」 「何か問題でも……」 「それがどこからか知らないが、神田部長の耳に入ってね。恐らく目撃者でもいたんだろう。」 「しかし、あの暗さではどうやっても見えないと思いましたが。」 「だとしたら、会話が聞こえたんだろうな。君は青木を挑発する目的で行ったのだから、かなり会話が激しくなるのは仕方なかっただろう。」 「なるほど。それなら多分可能性があります。」 「しかし、それならなぜ君は青木を捕まえなかったんだね。部長はそのことを問題視しているみたいだ。」 「捕まえるのが目的ではありません。前にも言った通り、仲間割れを狙うのが……」 「青木が実行犯なら、彼を捕まえれば事件は終結するじゃないか。」 「しかし、渡嘉敷は青木を殺すことも目論んでいる筈です。つまり、栗原は渡嘉敷自身の手で殺す心算でしょう。それならば、彼らをまとめて捕まえるしかないです。任せて下さい。必ず解決してみせますから。」 「分かった。部長には私からうまく言っておこう。」 [*前へ] [戻る] |