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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 武井は、警視庁を出て自宅へと帰る道中だった。
 時刻は既に、夜の11時半を過ぎている。
 近道の心算で、公園の真ん中を横切っていた所だった。
「武井警部だな。」
 武井は背中に拳銃を突きつけられるのを感じた。
「そうだが、一体誰だ。」
「今川周平だ、とでも言えば分かるだろう。」
 と、その男は言った。
「武井さん、あなたを今殺す心算はない。少し話がしたいだけだ。いいか。」
「その為には、まずその銃を下ろして貰おうか。私もあなたに会いたかったが、今は別に捕まえる心算じゃないから安心してくれて構わない。」
「安心するかどうかは、俺の判断だ。大丈夫と判断するまではこのままでいさせて貰う。」
 二人は会話をしながら、公園のベンチの方に移動して行った。
 時間が時間なので、彼らの側を通る者はいなかった。いたとしても、暗くて顔は分からなかっただろう。実際、二人にもお互いの顔は見えていなかった。
「早速質問させて貰うが、今朝の週刊誌の記事は一体どういうことだ。あれで事実を伝えた心算か。」
「その通りだ、今川君。君の知らない事実だ。」
「冗談はよせ。お前は15年前の犯人の肩を持つのか。」
 男の銃を持つ手に力が入ったのが、武井の背中に伝わって来た。
「冗談ではない。君は、渡嘉敷によって事実とは異なる事件の状況を伝えられたんだ。いや、頭に刷り込まれたと言った方が正しい。」
「俺は別に、渡嘉敷に操られてはいない。俺が渡嘉敷を利用して復讐を行っているだけなんだ。」
「それは、松田の殺害に関してだけじゃないのか。君は、あと何人といった走り書きを殺害現場に残していたが、近藤夫妻や中田、山口に一体どういう罪があったのか聞かせて貰おうか。」
「松田は言うまでもなく、愛奈を殺した犯人だ。近藤は愛奈を現場に連れて行った。残りの奴らも側で傍観していたんだ。そんな奴らを許してたまるか。奴らは死んで当然なんだ。」
「奴らには、栗原も含まれているのか。」
「当たり前だろう。あいつは愛奈を……」
「君の妹をどうしたと言うんだ。」
「……どうでもいいだろう。とにかくあいつを許す訳にはいかない。」
「なら何故、3月10日の夜に殺さなかったんだ。君は彼を助けたのだろう。」
「それは関係ない。栗原には、相応しい死に場を用意している。」
 と、今川は言った。
「しかし、それは全部、渡嘉敷から聞いた話だろう。」
「自分でも調べてみたさ。しかし、彼らはおかしいぐらい一様の回答を示して来た。アリバイだって誰一人なかった。怪しいこと極まりない。渡嘉敷の話に嘘はないんだ。」
「それは、お前がそう思い込んでいるんだろう。」
「まだ侮辱する気か。これ以上、渡嘉敷に迷惑をかけるようなら、俺は今ここで、お前を撃ち殺してやる。」
「まあ、落ち着いて最後まで聞いてくれ。私は今、抵抗する手段を持ち合わせていないから、君に私を殺すのは容易だろう。だが、最後に判断してくれ。」
「……」
「渡嘉敷は、自分の汚職が外に漏れるのを防ごうとして、事件を起こしたんだ。彼はN商事の中央管理部の資料の中に、自らの麻薬取引に関するものが流出してしまったことを、松田の口から聞いたんだ。松田は当然、渡嘉敷に事実の公表を求めた。脅しはしなかっただろうが、渡嘉敷には脅威だった。渡嘉敷は松田に口止めする為に、大金を動かした筈だ。松田は友人に金の出所を聞かれでもしたときに、事実を話してしまった。だから、渡嘉敷は対象の6人を殺すことを決めたんだ。」
「だが、それならばお前が公表した時点で、渡嘉敷には動機がないだろう。くだらない戯れ言だ。」
「いや、恐らく私も掴んでいない何かがある筈だ。殺人だろう。しかし、それはともかく、私は、15年前の事件の真犯人を知っているかもしれない。」
「馬鹿なことを言うな。真犯人は、松田たちで決まりだろう。」
「いや、そうじゃない。瀧澤直貴という人間だ。君は知っているんじゃないのか。」
「彼は、ただの協力者だ。15年前とは全くの無縁だよ。」
「君が知らないだけだ。まあ、私に言えることはこの程度しかない。瀧澤に関しては、君自身で調べた方が、納得が行くだろう。」
「……」
 今川の反応はなかった。
「私を殺すか。」
「今日の所は、見逃してやる。もう会う機会はないだろうけどな。」
 今川はそう言うと、音もなく武井の側から去って行った。

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あきゅろす。
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