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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「少々想定外の出来事が起こったな。」
「ああ。だが、予定が変わりはしない。計画通りに事を運ぶだけだ。」
 部屋には3人の男が、円卓を囲む形で話し合っている。
「でも、俺はここまで事が大きくなるとは思わなかったぜ。初めから言ってくれよ。俺は能登島で、あの校舎を手配してくれと頼まれただけじゃないか。」
 と、最後の一人が口を開いた。
 その声には、怯えの色が見え隠れしていた。
「何だ。お前、怖気付いたのか。この事件は、半分はお前を庇う為のものじゃないか、弟よ。」
「……いや……別にそういう訳じゃない。」
「そうか、ならいいんだ。一つ断っておくが、お前が警察に出頭すれば、15年前の罪でお前も裁かれるのは間違いない。あの時は、我々神奈川県警の捜査のおかげでお前は助かったが、捕まれば、当時の状況から極刑まで考えられる。」
「だから、出頭なんてことは考えてねえよ。」
「ところで、倉渡。計画通りとか言ったが、この際、警視庁の武井とかいう警部も始末してはどうだ。」
「何を言うんだ。いくら何でも無茶だろう。」
「いや、そんなことはない。お前の狙撃の腕があれば、500メートル圏内から、2発丁度で二人殺すのは、単純なことだろう。」
「しかし、そうすると、青木が警察の手から逃れるために失踪して行方を眩ました、という筋書きに支障が出るじゃないか。」
「お前はいつも慎重すぎるんだよ。なんなら俺が、二人が揉めてるところで、まとめて殺そうか。警察の仕事だろう、治安の維持は。」
 男はそう言うと、大きく笑った。
「いや、止めた方がいい。今までだって、それこそ石橋を叩いて渡らないぐらいに慎重にやってきて、証拠を掴まれなかったじゃないか。容疑がかけられているのは、単にあの武井の勘が鋭かっただけだろう。」
「警視庁の武井を甘く見ると後悔する。一応あれでも、捜査一課で最も優秀な部類だろう。証拠を掴まれている可能性だってある。だからこそ、武井を消すべきだと私は思うが。」
「……どっちでもいいが、出来るだけ人殺しは止さないか。捕まったときに罪が……」
「やはり、怖気付いているみたいだな。大丈夫だ。少なくとも、お前まで捜査の手が伸びることはあるまい。」
「そもそも捕まらないでやりきる自信はある。清水も指示通りに上手く動いてくれた。尾行自体に気付かなくとも撒く方法はいくらでもあるからな。」
「そう言えば、青木はともかく、清水はどうするんだ、兄さん。まさか消したりはしないよな。」
「青木に関しては、清水にはただ、行方を眩ましてもらう、としか伝えていない。青木の殺害現場を見られなければ、問題はあるまい。もちろん、緊急の場合にはどうなるかは分からないがな。」
「頼むから、清水はどうにかしてやってくれよ。殺さないでくれ。」
「お前、清水にご執心なのか。」
 倉渡と呼ばれた男は、にやりと笑って、自らが弟と呼んだ男に言った。
「いや、別に……。ただ、15年前は清水の為を思ってやったんだ。今川を殺す心算はなかった。たまたまだった。だけど、清水の為に手を汚したんだ。ここで兄さんたちが清水を殺したら、俺の15年は何になる。」
「そんなこと言うなよ。これもお前が捕まらないようにする為だ。結果は、なってみなければ分からないさ。」
 男はそう言うと、部屋を出て行った。

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あきゅろす。
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