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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「あの神田部長が、警部に期待しているだなんて、珍しいですね。今まで、一度でもこんなことがありましたか。」
「もちろん初めてだよ、ガワさん。私も驚いた。意外過ぎて、返って裏があるのでは、と勘ぐった位だよ。」
「今夜は大雪ですかね。」
 と、小川は笑って言った。
「まあ、部長でもたまにはこういうこともあるのだろう。」
「ところで、警部。先ほど事件全体について、じっくりと考えてみたんですが、今になってしっくり来ない点が出てきまして……。」
「ガワさんが考えているのは、渡嘉敷の動機だろう。違うかい。」
「はい、その通りなんです。渡嘉敷が麻薬関連の汚職に携わっていたのは、15年ほど前のことだった筈ですよね。しかし、もしそれが15年以上前のことであれば、時効が適用される為、松田らに知られても問題はなかったんじゃありませんか。逆に、時効が切れていないのであれば、別件で逮捕することも可能なのでは……。」
 と、小川が言った。
「渡嘉敷に動機があったことは間違いない筈だ。すると、時効が成立していないものが何か残っている筈なんだ。しかし、前に言ったかも知れないが、渡嘉敷だけを逮捕してもどうしようもない。青木の動きを抑える必要があるんだ。実行犯はほとんどが青木に違いないからな。」
「だから、二人を同時に捕らえよう、という訳ですか。しかし、渡嘉敷を捕まえて吐かせられれば、それで済むことじゃありませんか。四課の本橋警部なら、あっという間にけりが付きそうですよ。」
「だが、渡嘉敷はそう簡単に吐かないさ。だから仕方あるまい。」
 と、武井は顔をしかめて言った。
 二人が話しているそこへ、いきなり扉を開けて吉岡が駆け込んできた。
「武井警部。」
「どうした。」
「今朝発刊の週刊誌を読みました。一体どうなさる心算なんですか。」
「その話か。たった今、神田部長に叱責されて戻ってきた所だよ。」
「警部の進退に関しては、何か話がありましたか。」
「まあ、事件がうまく解決出来なければ、責任を取って辞めるしかないだろう。それだけの話だ。解決出来れば問題はない。」
 と、武井は落ち着いて言った。
「しかし、これは警部が青木か渡嘉敷を誘き出すのが目的なのですよね。」
「その通りだが……。」
「では、やはり問題です。警部が殺されかねません。」
「もちろんそれは覚悟だ。今回の件は、私が青木を誘き出すのを目的として仕組んだことだ。誘き出すと言っても、決して逮捕を目的とはしていない。武井和久個人として、青木と会って話をするだけだ。それで青木に、渡嘉敷に対して疑念を抱かせられればいい。」
「だめです、警部。青木が狙いなら、尚更問題です。」
 と、吉岡は顔を青くして言った。
「一応、私個人で青木と渡嘉敷の二人について調べてみたことがあります。そのとき知ったのですが、渡嘉敷はクレーン射撃の経験者なんです。また、それだけでなく、2年前からは、奥多摩や秩父での狩猟グループに所属しています。」
「何だと。なぜそれを今更……」
「まあ待て、ガワさん。詳しく説明してくれ、吉岡君。」
「今回の一連の事件で、遠距離からの狙撃によって殺害された者がいないので、問題はないと思っていたためお伝えしませんでした。渡嘉敷の射撃の腕はかなりのものです。半径500メートル以内からの狙撃は、失敗する確立は極めて低いです。警部が青木と接触を図ったら、下手をしたら渡嘉敷に、二人まとめて狙撃されかねません。」
「だが、これが最後の機会かも知れない。渡嘉敷が栗原を狙うときに捕まえることも考慮していたが、それで失敗したら後がない。彼らに県警の鈴木刑事が付いていることを考えると、証拠を押さえるのは難しい。現行犯で捕まえるしかないんだ。」
「しかし……」
 吉岡の言葉を遮る形で、電話が鳴り響いた。
「早速のようだな。」
 と、武井は言うと、電話を取った。
「警視庁の武井警部だな。」
 と、電話の声は聞いた。
「そうだが、一体どなただね。」
「一つだけ聞きたい。今朝の週刊誌に書いてあった内容は、事実の心算か。」
「そうだが、何か。」
「……」
 武井の問いには答えず、電話は切られていた。
「青木でしたか。」
「いや、変声機を通していたみたいだから分からない。だが、恐らくそうだろう。だが、何の要求もなかった。」
「いきなり襲い掛かってきますか。」
「可能性は無きにしも非ずだ。一応、警戒はしておくよ。」
 武井はそれだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。

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