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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 翌2日、武井は案の定、朝早くから神田刑事部長に呼び出された。
 神田は、明らかに不機嫌な表情で、部屋はぴりぴりした空気に包まれていた。
「武井君、これは一体どういうことなのか、説明をしてくれ。」
 神田はそう言うと、1冊の週刊誌を机の上に叩きつけた。
「君の返答によっては、厳しい処分を下さねばならないかも知れんな。」
 いつもは武井に助け舟を出してくれる福田一課長も、この日に限っては厳しい顔をしている。
「全てはご覧の通りです。私が依頼して、佐田という記者にこの記事を掲載して貰いました。」
「依頼して、だと。なんと馬鹿げたことを……。君はこれがどういうことなのか分かっているのかね。」
「はい。申し訳ございませんでした。」
「警察関係者が外部の者に、事件の進捗状況や捜査上の過程で得た証拠品などを提示するのは、タブーであることは分かっている筈だろう。どうしてこんな暴挙に走ったのだ。」
「捜査の進展の為に必要と判断して、私の独断で行いました。」
「捜査の進展とはどういうことだね。これが、確証のあるものならばまだしも、あくまで状況証拠のみの推理に過ぎない話ではないか。そんな記事を、警察の依頼によって掲載したとなると、マスコミからの非難が絶えないに決まっている。既にこの段階でも、苦情の電話が来ているんだ。昼頃になったら、苦情はさらに殺到するだろう。君はどうやって責任を取る心算だね。」
「確かに、この記事によって、私が犯人の一人に挙げた渡嘉敷さんからは、名誉毀損などで訴えられてもおかしくありませんね。しかし、彼が今回の事件の首謀者である、ということに関しては、正しい推理だという自信があります。」
「彼が犯人だという確信があると言うのか。証拠もないのにか。信じられんな。」
「まあ、落ち着いて下さい、神田部長。武井君の考えている捜査の進展とは何か、を聞いてからでも遅くはないでしょう。」
 と、福田が神田を制した。
「私が、この記事が掲載されるにあたって、私の名前を出して欲しいと言ったのには、れっきとした理由があります。恐らくこの記事を見て、渡嘉敷よりも先に、青木が動きを見せるでしょう。」
「それはどういうことなんだ、武井君。」
「青木は渡嘉敷に操られて事件を起こしているという自覚はない筈ですから、少なくとも記事を読んで動揺するでしょう。ですが、渡嘉敷に対して何らかの恩を感じていると見られますので、渡嘉敷を庇って、私と接触を図ってくる可能性があります。」
「それは、事件の犯人としてではなく、渡嘉敷の友人としての、君との接触かね。」
「どちらに転ぶかは分かりません。しかし、少なくとも私と青木がこの件において接触できれば、青木と渡嘉敷の間の信頼を、多少なりとも崩せると考えています。」
「君が青木に、容赦なく殺される、というシナリオは考えなくて大丈夫なのか。」
 と、神田が意地悪そうに言った。
「まあ、それに関して可能性がないとは言い切れませんが、青木はあくまで、亡くなった妹の復讐の為にしか殺人は犯さない筈です。」
 と、武井は答えた。
「君の言い分は分かった。では、青木からの動きが見れず、事件が一向に解決に向かわなかった場合は、君はどうする心算かな。」
「そのときは、責任を取って刑事の職を辞めさせて頂きます。」
「マスコミへの対応は。」
「今回の件に関しては、全て私の一存で行ったものなので、神田部長に責任を取らせる心算はありません。」
「分かった。それほどの覚悟でやったんだな。必ず事件を解決してみせろ。」
「はい。分かっています。」
「……期待しているぞ。」
 と、神田は最後に一言だけ付け足した。

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あきゅろす。
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