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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「警部の方から仕掛けた、と言いましたが、一体何を企んでいるんですか。」
 部屋を出たときに、小川が心配そうに、武井に言った。
「安心してくれ、ガワさん。大したことじゃないよ。」
「しかし、渡嘉敷らの動きを煽るのが目的なら、かなりの挑発をしたのではないかと……。」
「なに、明日になれば、私が何をしたかは自然と皆に知れ渡るさ。」
 と、武井は言った。
「しかし、一体何を根拠に、犯人が動くと読めるのですか。」
「それは、青木が事件を起こしている動機を考えると一目瞭然だよ。」
「事件を起こしているのは渡嘉敷で、青木はただの実行犯だ、という推理だった筈ですが……。」
「確かに青木は、渡嘉敷の思うがままに操られている実行犯だ。だが、彼には15年前に殺害された妹の復讐という表向きの動機がある。」
「しかし、それも渡嘉敷によって伝えられた、真実とは異なる過去を信じ込んでいる訳でしょう。」
「そうだ。渡嘉敷によって伝えられた、というのがポイントになる。前にも言った通り、青木にとって渡嘉敷は、妹に関する真実を教えてくれた、いわば恩人の筈だ。真実かどうかを判断するだけの正常な思考は、なかった筈だろうからな。」
「ええ。それは分かっていますよ。」
「だが、それは裏を返せば、渡嘉敷の為に罪のない人間を殺してきたことになる。妹想いの優しい兄といった言い方を犯人に使いたくはないが、そんな青木が事実を知ったらどう思うだろうか。」
 と、武井はあえて遠回しな言い方で、小川に聞いた。
「……私が青木だったら、恐らく渡嘉敷に対して反感を抱くでしょうね。下手をしたら、殺そうとまで思うかも知れない。」
「下手をしなくても、青木は渡嘉敷に対して殺意を抱きかねないね。なぜなら、渡嘉敷は瀧澤を匿いながら、自らにとってのみ邪魔な存在である松田たちを、青木に殺させていた訳なんだから。」
「確かに、自分の復讐の対象を渡嘉敷が匿っていた、と青木が知ったら、それはもうただ事じゃ済まなくなりますよ。」
「そうだ。青木は間違いなく渡嘉敷と瀧澤をまとめて殺しにかかるだろう。清水と鈴木に関してはどうなるか分からないがね。だが、逆に渡嘉敷の方も、常に青木に真実を知られるリスクを背負いながらここまで事件を進めてきた訳だ。そろそろ青木を消そうと考えても当然だった訳だ。」
「それが、清水の家のカレンダーにメモされていた『SI Bzyh』につながる訳ですね。」
 と、小川が納得したように言った。
「ああ。早い話が、青木と渡嘉敷は、常にお互い綱渡りの様な形でバランスを保ってきた危うい関係だったんだ。それが今、崩れ去る寸前まで来ている。そこに拍車をかけようというのが、私の狙いだった訳だ。」
「拍車をかける、ですか。警部はもしかして、あの佐田とかいう友人と接触したんですか。」
「なかなか鋭い指摘だ。正解だよ。彼に頼んで、事件の渡嘉敷に関する所だけ記事にして貰った。明日発刊される週刊誌に記事が載る筈だ。提供元は私だと明かして貰う。」
「そんなことをしたら、警察全体の問題になりますよ。少なくとも神田刑事部長は、かなりお怒りになると思います。」
「それは確実だろう。事件が解決できなかったら、私の罷免さえ考慮されるに違いない。だが、私には勝算だってある。それはそれで構わないよ。」
「問題はそれだけじゃありません。一応青木は、渡嘉敷の言うことを信用しているのは確かですから、記事を見て、武井警部を狙ってくる可能性もあります。警部の命に関わりますよ。」
「大丈夫だ。私は、青木との接触まで考慮に入れている心算だ。記事をすぐに信用しなくても、渡嘉敷に対して疑念は抱くだろう。それで、彼らの結束が解ければ事件は解決だ。」
「しかし、青木と渡嘉敷のどちらかが狙われる状況になったときに、実行犯で捕らえられますか。」
「それはやってみるしかない。とにかく今は、青木の動きに注目したいね。まあ、その前に、明日の朝は神田部長にこってり絞られて来るよ。」
 と、武井は苦笑して言った。

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あきゅろす。
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