[携帯モード] [URL送信]

十五年越しの殺意(外村駒也)完
ページ:3
「こんな時間にいきなり呼び出して済まなかったな、佐田。どうしても君にしか頼めないことがあって……。」
 場所は、武井がよく利用するカフェである。
 その夜の会議が終わった後、武井は高校時代からの友人で、週刊誌の記者をしている佐田義和を呼んで、とある話を持ちかけていた。
「珍しいな、タケヒサ。お前が俺を呼び出すということは、何か探って欲しいことがあるんだろう。いつも言う通り、代わりに何か事件の情報を提供して貰うよ。それが条件だ。」
 タケヒサとは、武井のあだ名である。武井和久だから、という安直な名付けである。とは言っても、佐田以外の人間がこの呼び名を使ったことは一度もない。
「まだ、私の話も聞いてないのに、勝手に決めつけるんじゃないよ。」
 と、武井は笑って言った。
「実は、とある記事を週刊誌上に流して欲しいんだよ。」
「何だって。そんなことしても構わないのか。いつもお前は記事の提供を拒んでいたじゃないか。」
 と、佐田は驚いて言った。
「まあ、今回に限っては、事件の解決に欠かせなさそうだからね。」
「その記事の中身は、真実なんだろうな。ガセネタを週刊誌上に流す訳にはいかないぞ。特に提供元が警察関係者となればなおさらだ。」
「何を言うんだ、佐田。いつもあることないこと書き立てる癖に……。それに、今回のネタは、一応確信はある。」
「……確信は、か。証拠はないのか。」
「残念ながらな。だが、多分週刊誌上に話が載ることで、犯人が動きを見せるだろうから、そこを捕えたいと考えている。どうだ、この話を受けて貰えるか。」
 と、武井は聞いた。
「……うーん。困ったなあ。話の中身を聞いてからで構わないか。」
「大まかな概要だけならな。もし受けてくれるなら、明日にでも細かい点も含めてFAXで連絡する心算だがな。」
「分かった。概要だけでも聞かせてくれ。」
「N商事の渡嘉敷という男に関する情報なんだが、もう今から15年以上前にさかのぼる。時効は過ぎているので、我々警察には手が出せないんだが、その渡嘉敷が、高卒でN商事薬品部に入った頃、東南アジアからの麻薬の裏取引に携わっていたんだ。これに関しては、一応証拠は揃っている。」
「それだけじゃないんだろう。週刊誌に載せて欲しい内容の本題は、他にあると踏んだが……。」
「さすが佐田だ。察しがいいな。今、私たちが取りかかっている事件に関しては、何か知っているか。」
「横浜、東京、和倉の3カ所にわたって広がった一連の殺人事件だろう。犯人の目星すらついていないというのが専らの噂だが、実際はどうなんだ。」
「概要が分かっているなら、話は早い。その事件の首謀者が渡嘉敷ではないかと私は考えているんだ。実行犯は他にいるがね。」
「それで、その動機が15年以上前の渡嘉敷の麻薬取引と関連がある、ということだろう。」
「その通りだ。恐らく、渡嘉敷の過去の汚職に気付いた人間を消す為に事件が仕組まれたんだろうと考えている。」
「しかし、それなら渡嘉敷を捕まえてしまえばいいじゃないか。」
 と、佐田は言った。
「そうはいかないんだ。犯人は複数いて、渡嘉敷は実行犯ではないと言っただろう。今の理由では、渡嘉敷一人しか逮捕出来ない。そして厄介なことに、実行犯は異なる動機を持っていて、復讐のために殺人を繰り返しているんだ。」
「だが、それと俺に書かせる記事とどういう関係があるんだ。」
「それは気にすることはない。とにかく君は、今回の一連の事件の犯人が渡嘉敷であり、その動機が過去の汚職にあるのでは、という予測を立てた記事を書いて欲しい。情報提供元には私の名前を出して構わない。」
 と、武井は言った。
「本当にいいのか。事件の捜査の担当者が、記事を週刊誌に提供するなどというのは、間違いなく問題視されるぞ。下手をしたら、刑事の職に留まれないぞ。」
「今回の事件さえ解決できれば問題ない。それに、一応私には勝算があるからな。」
「……分かった。お前の要求を飲もう。多分、無理やり頼み込めば、明後日の週刊誌に間に合うかも知れない。」
「やれるか。」
「もちろんだ。タケヒサの頼みとあらばな。」
「ありがとう。よろしく頼むよ。」

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!