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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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「岡部はやはりだめでしたか。」
「残念だがね。個人的には、岡部君なら何とかやってくれると思っていたが、相手の方が一枚上手だったみたいだ。詳しいことは、彼が戻ってきてから聞くとしよう。」
「ところで、警部。犯人グループの仲間割れが私達にとってのチャンスだと言いましたが、果たしてうまくいくのでしょうか。もし、一方的に青木が消された場合、なす術がないんじゃないかと……。」
 と、小川は不安げに言った。
「それは、確かに一理ある。渡嘉敷が青木を消そうとするその現場に居合わせて、現行犯で逮捕し、一連の殺人に関しては、逮捕後の自白を迫るのが、私達の狙いだからな。」
「うまく彼らは中から崩れてくれたらいいのですが……。何かこちらから働きかけられないでしょうか。」
「大丈夫だ。それに関しては、一つ方法を思いついてある。岡部が戻って来て、話が終わり次第、私個人でその手段に取りかかる心算だ。」
 と、武井は言った。
 岡部を待つこと2時間、時刻は既に午後8時を回っていた。
 犯人側の動きをつかむ絶好の機会を、彼の手で潰してしまったので、それもその筈ではあったが、岡部は暗い表情で部屋に入って来た。
「いったいどうして清水を逃してしまったんだ。」
 小川が開口一番、岡部を怒鳴りつけた。
「ガワさん、そこまで怒る必要はない。頼むから落ち着いてくれ。」
 と、武井がなだめたが、小川はまだ納得がいかないようだった。
「それで、いったい何があったんだい、岡部君。」
「僕が清水から一瞬、目を離した隙に逃げられた、というのが全てです。僕の失態です。すみません。」
「謝ってどうこう、という話ではないんだ。詳しく状況を教えてくれ。」
 と、武井は岡部に言った。
 話を聞くにつれて、岡部の単純な失態ではないな、と武井は思えて来た。
 確かに、岡部が清水から目を切ったのは、問題である。しかし、状況を鑑みるに、誰が清水の尾行をしていても結果は同じだったのではないだろうか。恐らく、岡部が目を離したタイミングに清水が動いたのはたまたまであって、清水が尾行自体に気づいていなかった可能性もある。つまり、どれだけ尾行の距離を詰めていても、尾行を撒くことが清水はできたということだ。
「……という訳で、清水を逃してしまいました。ただ、僕にはどうしても納得がいかない点がいくつかあるんです。」
「どこが疑問なんだい、岡部君。」
「第一に、清水がどうして川崎行の電車に間に合ったかです。発車ベルが鳴り終わった段階では、清水はまだ、僕の視界の中にいました。それも、上下線のホームをつなぐ通路の途中でしたから、下り階段にさえとどいていなかったんです。そこから電車に間に合うとは到底考えられない。」
「なるほど。それは明日にでも実証してみようじゃないか。」
「第二に、清水と僕が川崎から乗っていた電車が、時刻表を見たら載っていなかったんです。時刻は確か、午後5時54分だった筈です。川崎行は確かに載っていましたが……。」
「それは、本当なのか。時刻を見間違えたりはしていないのかい。」
 と、小川が食ってかかった。
「そんな筈はありませんよ。電車が発車した瞬間に、時計と次の電車の時刻を確認しましたから。それに、6時前後で上下線共に電車がホームに入っている時刻は、いずれにせよありません。電車の遅れもなかったですから、それこそ謎なんですよ。」
 と、岡部は反論した。
 武井や、その場に居合わせた津野も頭を抱えている。
「……仕方ない。今日はこの辺にして、明日から一つ一つ検討していこうか。」
 と、武井は言った。

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