十五年越しの殺意(外村駒也)完
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岡部と清水の乗る南武線の電車が、稲城長沼駅に着き、ドアが開くと同時の出来事だった。
厳密には同時ではない。しかし、そのあまりに短い時間の間に起こった出来事は、一瞬と捉えても間違いではない筈である。
清水が立っていた4号車の1ドア目は、ちょうど稲城長沼駅の上り線と下り線を結ぶ通路の階段が目の前に来る形となった。
岡部がちらと目を離した隙に、清水は階段を駆け上がって行った。もちろん、岡部が気づくまでに2秒と経ちはしなかったのだが、二人の距離をあけるのには十分すぎる時間であった。
岡部が階段を上り下りして、向かい側のホームに着いたときには、清水の姿は見えなくなっていた。
このときになって初めて岡部は、上り線にも電車が止まっていたことに気が付いた。だが、既に電車のドアは閉まり、発車していたのである。
また、稲城長沼駅の上りホームには、駅唯一の改札口がある。
果たして清水は、電車に乗ったのか、改札を出たのか。
結論が一瞬で出る筈はないのだが、岡部は、清水が改札を出た方に賭けた。と言うよりは、そっちに賭けざるを得なかったのである。
電車が出てしまった今、清水が乗っていたとしても、岡部に出来ることは何もない。
だが、岡部には賭けの勝算もあった。岡部が電車の発車ベルを聞いたのは、下りホームに降り立ったときである。ベルが鳴り止んだときでさえも、階段を上っている最中であった。清水が川崎行の電車に乗れる可能性はごく僅か、もしくは不可能だったと、岡部は考えたのである。
しかし、岡部の賭けは無惨な結果に終わった。
予想していたことではあったが、清水はやはり電車に間に合ったのである。改札口の駅員は、岡部が説明したような女性が出て来はしなかった、と証言した。
「……もしもし、武井警部ですか。岡部です。」
岡部は叱責されるのを覚悟で、警視庁に事のあらましを説明するため、電話を掛けた。
「ああ、武井だが、その調子だと、清水を取り逃がしたみたいだね。仕方がないが、とにかく今はこっちに戻って来てくれ。」
武井はそれだけ言うと、電話を切ってしまった。
(正直、かなりの失態だったな。)
と、岡部は思った。
岡部が清水から目を離したのが、明らかな原因だった。そして、清水を最後まで目で追えなかったことも、問題であった。尾行としては、失格である。
清水が鈴木から、尾行をどこでどのように撒くかの指示を受けていたのは、もはや明白であった。
岡部はやむを得ず、時刻表を数枚取って、次の電車に乗り込んだ。
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