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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 警視庁の捜査本部では、武井らが立てた推測が、徐々に現実味を帯びてきたこともあり、比較的重苦しい雰囲気は消えていた。
「しかし、警部。岡部一人で、尾行は大丈夫なんですか。」
「心配することは無いよ、ガワさん。清水は恐らく、尾行そのものには気づいていないと思う。鈴木刑事に、撒き方は教わっているとは思うがね。だが、途中の駅で動いても、岡部君なら何とかしてくれるだろう。」
「確かに、彼はあれでも私達の中で一番尾行に長けていますからね。ところで、先ほど鶴見の清水宅から戻った刑事の話だと、自宅内に渡嘉敷らとの繋がりを示すものは何も残されてなかったそうです。その代わり、カレンダーのメモで面白いものを発見したそうですよ。」
「一体何だね。」
「メモは二つあるのですが、一つは5月21日の所に、『M高、MK』、もう一つは、4月と書かれた隣に、『SI Bzyh』だそうです。」
「『M高、MK』の方は分かりやすいですね。」
 と、吉岡が隣から口を挟んだ。
「ああ、確かにな。5月21日と言ったら、15年前の事件が起こった日だろう。すると、この日に今回の事件の決着をつける気でいるんだろう。多分、M高は緑ヶ丘高校を指す筈だ。」
「MKは6人目の人間を指す筈でしょうね。すると、栗原将史と言うことになりますかね、警部。しかし、そうなると、やはり主犯が青木修平で、渡嘉敷は共犯ということになりませんか。わざわざ事件が時効を迎える日に、決着をつけようとするなんて……。」
 と、小川が言った。
「だが、一概にそうとは言い切れない。首謀者の渡嘉敷が、主犯が青木であるように見せかけるために、日程を設定したことも考えられる。恐らく、そのヒントは『SI Bzyh』だろう。」
「SIは今川周平ですか。すると、Bzyhは何を表すんですか。」
「それを今から考えていこうじゃないか。」
 しかし、『Bzyh』が何を表すのか、容易に想像はつかなかった。今川が行う予定の行動を表す可能性が最も大きかったが、その先が見えてこなかった。
 少しして、渡嘉敷と瀧澤の件の調査から津野が戻ってきた。
「渡嘉敷の父親は依然として出てきませんでしたが、瀧澤の父親とその愛人の間に、子どもが一人いた、という話を聞きました。裏は取れています。」
「その愛人というのは……。」
「沖縄出身で、原宿のバーで働いていた渡嘉敷未生、という女性です。生まれた子どもは、現在ちょうど34歳の筈です。」
「渡嘉敷と一致しているな。やはり渡嘉敷は、瀧澤の異腹の兄だった訳だ。これで合点がいく。15年前に瀧澤が事件を起こしたことを渡嘉敷が秘密裏に知って、その真実を隠すと同時に、事件の罪を松田たちになすりつけて、青木に殺させた訳か。」
「渡嘉敷は、青木をうまく利用した訳ですね。自分の過去の汚職を知った人間を、青木の復讐心の対象にして消し去ろうとするとは……。」
 と、小川が言った。
「……ところで津野君。突然なんだが、君はこれをどう読み解く。清水の自宅のカレンダーに書いてあったんだが。」
 武井はそう言って、『SI Bzyh』と書かれた紙を指差した。
「……SIは今川周平ですよね。Bzyhは……失踪させる、ですか。」
 と、津野は言った。
「失踪させるだと。どういうことなんだ。」
「いえ、あくまで予想なんですけど、大文字でBは、beを表して、zyhは暗号化された文字だと思うんですよ。」
「それで、zyhは暗号を解くとどうなるんだ。」
「恐らくこれは、AがZ、BがY、……という風に対応してるんでしょう。そうすると、zyhはabsを表します。事件と関連のある言葉だとしたら、abscondingで失踪じゃないでしょうか。自動詞ですけど、仲間内でのやり取りの為なら、be abscondedとでも考えて、今川を失踪させる、と読み解けませんか。」
 と、津野は解説した。
「でかしたぞ、津野。可能性としてはそれが最も大きそうだ。」
「ですが、警部。そう考えると、渡嘉敷たちは内密に青木を消す、ということじゃありませんか。」
「確かにそうだ。だから、今後は青木の監視をより強める必要がある。だが、犯人側が中から崩れてくれるのは最もありがたい。多分、青木が狙われたときが、犯人逮捕の時だ。」
 と、武井は強く言い放った。

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