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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 岡部と清水は、それぞれ4号車の2ドア目と1ドア目の所に立っている。電車は、久地を出て宿河原へと向かっていた。
 岡部は未だに清水の行動の意味を図りかねている状態だった。
 現在の状況を武井警部にメールでは報告したものの、予想はしていたが、まだ返信は返って来ていなかった。
 鈴木刑事を尾行していた河西からは、鈴木が何事もなく神奈川県警の方に戻ったという連絡を既に受けている。
 時刻は既に、午後5時45分を回っていた。
(今日の行動は、事件とは全く無関係なのか。)
 とさえ、岡部は思えてきた。
 岡部には、清水の向かう先が、全く予想がつかなかった。
(清水が立川方面に一体どういった用事があるというのだ。まさか、奥多摩の大谷家の別荘に行く訳はあるまい。)
 そういった事を考えていた岡部のもとに、やっと武井から連絡が来た。
  第一に、決して清水から目を離さないこと。清水が何者かに書類を渡すのを命じられていた場合、車内で仕事を済ます可能性もある。
  第二に、立川駅に尾行の増援を送ったこと。一人での尾行には無理が生じるため、捜査一課から二人が、立川駅南武線ホームに控えている。
  第三に、明らかに尾行の様子を見るような行動には、つられないこと。
 この3つが、武井警部からの指示であった。
 岡部がメールを読み終えるのと同時に、武井警部から「追伸」と題したメールがもう一件入った。
  途中の駅において清水が動きを見せた場合には、全て君の裁量に任せることにする。
 といった内容だった。
 岡部は一瞬、不安を感じた。彼の勘が、恐らく清水は終点の立川まで南武線内にいることは有り得ない、と告げていたのである。川崎駅でそうだった様に、どこかで隙を見つけて尾行を撒こうとする筈である、と。
(だが、尾行の存在に気づいていない筈の人間が、どうやって尾行を撒くのだろうか。誰を撒くかの見当も付かない筈なのに……。)
 岡部はそこまで考えて、県警の鈴木刑事の存在を思い出した。
 鈴木本人は、河西刑事からの連絡で、県警にいることが分かっている。だから、この場に居合わせて状況を把握して清水に指示を出す、といったことは出来ない。清水が電話を掛けた様子もないので、外からの指示もないはずである。
 だが、鈴木が清水宅にいた3時間が、岡部の頭の中に引っ掛かっていた。なぜ、3時間もいたのか……。
 恐らく、それは尾行を撒く算段の為だったのだろう。鈴木自身も刑事という仕事柄、尾行を数知れないほどやった経験があるはずである。
 それは逆に、尾行をいかにして撒くかも知っているということである。全ての人間に後ろを追けられない術を、3時間かけて清水に教え、今まさに実行させているのではなかろうか。川崎駅での出来事も、岡部にとっては間一髪であった。あの時点で撒かれていた可能性も考えられる。今、岡部が清水を追けていられるのは、単に運が良かったからだけなのかも知れない。
 電車は、稲城長沼駅のホームへと入って行った。

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