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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「作戦」
出撃前、小屋の日陰に張られた仮設テントにて臨時のブリーフィングが行われた。アラシュの傍らにはサクスがいる。せめてブリーフィングまでと強引にアラシュが引き止めたのである。そしてサクスは渋々ながらも折れた。
 オドグが壁に張られた地図や設計図を前に話し出す。
「我々がターゲットとする空中砲台はその名の通り、空中からの爆弾投下を目的とした戦略的兵器だ。垂直移動は水素発生器、水素は軽い分火を近づけると爆発する気体だ、それで調節出来るが、水平移動はその地点での気流に依存している為あまり小回りは効かない。最大の脅威はそれが地形を無視して移動出来る点、そして地上からの迎撃が困難な点である。今回の布陣としては、艦隊を近海で追い抜く程度の速度で展開しているらしい。接岸の支援も兼ねていると言ったところか。
 後、本作戦で使用するリョコウトカゲの操縦法だ。大まかには普通のトカゲと同じく、右は手綱を右に、左は手綱を左に引く。上昇は両手綱を引き、滑空は両脇に足を当てる。発信、着陸はどちらも首の両側を手で叩く。前述の通り全てのリョコウトカゲに目標までの道筋は教えてあるので、途中は特に操作しなくて良い。一応背中には鞍とベルトを着けてある。航空中もその上で寝られるはずだ。安眠は保障出来ないが。
 作戦について、は正直手詰まりだ。こちら側の戦力は我々の航空兵十人だが、敵の空中砲台は二百を裕に上回るという。航空兵一人で十は落としてくれないといけない計算になる。ただ、実際問題それは物理的に難しい。帝国側は前回の失敗、気球に下から花火を当てられて爆発したって間抜けだ、それ以来砲台の横にスペースドアーマーを装備したり、編隊間隔を多めに取ったりと迎撃対策をしている為、上空からの攻撃も些かしづらくなっている。そもそもリョコウトカゲの揚力は速度に比例するから、砲台の傍でホバリングする事は出来ない。またリョコウトカゲへの飛び乗りも緊急時以外は当てに出来ない。大量撃破の為には乗ったまま、擦れ違い様に事を為さねばならない訳だ」
 オドグは意見を待つように静まった。
「穴さえ開ければ良いなら、槍を使えば良いのでは」
 傍らのサクスに向かって小声で言う。
「なら自分で言え。そして自分で責任を取るんだ」
 サクスは無情に突き放す。
「意見が有るなら皆の前で言え」
 話し声を聞きつけたオドグが指名した。サクスがアラシュの横腹を小突く。渋々と、アラシュは発言する。
「槍を使った方が良いと思います」
沸いたように傭兵らの間に非難する声が上がった。
「槍は未熟な兵士の道具だ」「貴様はノメイル傭兵の品位を下げようとしているのか」「俺様のハルバードで十分だ」
予想してはいた。何年にも及ぶ訓練を受けたノメイル傭兵には、その技量を誇示する為に、槍でも柄頭を複数付けて多目的武器として使う者が多い。それだけ短期間で習得できる槍を使う事は自尊心の強い傭兵にとって屈辱なのだ。しかし、そこまで怒りを露にされると堪えた。
「それはどういう理由だ」
 オドグが理由を問う。
「帆に穴を開けさえすれば良いなら、繊維を切るよりも鋭い先端でその編目を広げた方が確実かと。それならハルバードや方天戟でも十分と言うかもしれませんが、刺突に柄頭は寧ろ邪魔かと」
「確かに一理ある。本部から人数分の槍を持ってこさせよう。そして、それの携帯は命令とする。従わなかった者は有無を言わさず除名する」
 オドグの発言に、傭兵らはアラシュの方を睨みつけた。また印象を悪くしてしまった。オドグが言うように、背に腹はかえられないのだが。
「なら、お前が先にやれ」「失敗したら、ただじゃおかない」「責任取れ」
 脅迫紛いの発言まで聞こえる。
「きっちり活躍して、見返してやれ」
 サクスの激励のみが私の味方だった。

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