[携帯モード] [URL送信]

残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「旅路」 遠征初日 午後四時 ダクラ
ライク州とアノス州の境、ライク川を横断し終わった途端、突如豪雨が起こり、凍えるような雨粒が盛んに頬を叩いていた。
背筋が凍える。自分は皮で補強されたフード、隙間のできない様設計されたゴーグルを被り直した。そして乗っていたオルが奇数の蹄で正常に土を蹴っていることを、北東に向かっていることを、時折確認しながら進む。見上げると、積乱雲に遮られながらも朧気に月が見えた。
自分は、ノース州主ミュールド=ニルシュトを父に、レトフランシェ=シルドヴァイエルを姉に持っている。姉が将軍の跡継ぎに嫁いで将軍家の政治を監視していたのに対し、一週間前まで自分は平民に扮してガゼル政策の現場を監視していた。
この度は姉から情報を得た父の指示で、この部隊を監視するために所属していたのである。それは彼が[トースの奥にある洞窟の中には失われた聖剣『ツルキ』がある]という帝国使節団が将軍ガロレイド=シルドヴァイエルにもたらした情報に疑いを持った為だ。確かにノメイルは傭兵の派遣を除いて他国との人の行き来も無い。また貿易においても、数少ない輸出品である武具の流通、及び全港の管理は国が一貫して行っている。その為、聖剣が喪失したとしても国内、特に未踏の地であるガゼルの縄張り(編者註・人間による統治が為されていない唯一の地域として地名はトースとされている)にある可能性は否定出来ない。
しかしノメイルの地理に疎い筈の帝国がノメイルの知らない情報を持っている訳がなく、持っていたとしても、その代償を求めずに友好の為と称して、提示するのは怪しい。無論、将軍ガロレイド=シルドヴァイエルもこの情報の真偽は疑ったのだろう。が、情報を無視した際に帝国が報復と称して侵略することを恐れ、逆らえなかったに違いない。
それならば――たとえ死傷者を出してでも――帝国使節監視官に非を責められないような状況を作り出し、部隊を撤退させれば良い。

[*前へ][次へ#]

2/25ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!