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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「出航」
 一日八時間、合計二十四時間走り続け、アラシュとオルはオルスに到達した。
 アラシュは小高い丘の一つからノメイル唯一の貿易港を見渡す。海岸線は端正な弧を描き、それと水平線に縁取られた海は微かに欠けた月のように見えた。

 彼の立つ丘はそのままオルスを囲んでいた。この地形はオルスにおける運輸を少々不便にしているが、代わりに海岸線の防衛を容易にしている。上陸した敵軍を最小限の軍事力で足止めできるからだ。彼の背後には陸軍基地がある。そこから丘を挟んで港まで続いているのが海軍基地だ。
 眼下には来航者のための居留地があった。ノメイルでは、将軍家の許可を得た商人以外、オルスより内陸に入る事は禁じられている。大抵の取引は船上か居留地内で行われるのである。そしてそれを囲んでいるのは高い有刺鉄線付きの壁、その中央にある間隙は検問だ。そこで州の役人や著名な工房の仲介者は身辺と売り物を厳重に検査される。人身売買や芸術品の海外流出を防ぐ為だ。
 港にはいくつかの戦艦と商船が停泊していた。その中でも一際大きい戦艦はネーズル国旗を掲げている。これがハイルドの言っていた派遣船だろうか。
 その戦艦から、出港間近を告げる汽笛が鳴った。彼は急いでオルに飛び乗り、港を目指した。

 港に隣接している駅にオルを返却し、駆け足で戦艦に向かう。碇や舫綱は既に巻き上げられていた。
「私は傭兵です。船に乗せていただけないでしょうか」
 彼は声を張り上げる。その声に反応し、一人の男がタラップで振り返った。アラシュの姿を認めると、船員に指示を出し、タラップの収容を止める。
「そうか。この船は直に出発する。交渉は中でしよう」
 アラシュは彼に続いてタラップを上っていった。

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あきゅろす。
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