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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「女中」
予め書斎に運んでおいた数匹のカワラバトがクルル、クルル、と声を上げる。彼らは伝書鳩であり、寧ろ送る側なのだが。
トレラテは、慣れた手つきで机の引き出しから数本の筒を取り出す。鳩に結わえ付けるための小さく薄い桐製の通信筒である。その中に一つずつ、署名入りの小さく折りたたまれた手紙を入れる。横で彼女の主、ミュールドが綴った手紙である。最後に、通信筒に付いている上下のバンドを伝書鳩の足に巻き付け、開かれた窓から一羽ずつ放つ。
主には毎日数通の手紙が来る。送り主は州主であったり、贔屓にしている武具商であったりする。内容も彼が治める州の内情に関するものであったり、趣味の天文学に関するものだったりする。そして全てに何らかの返信をする。それが、父ノスタリオール=ニルシュトより州主を引き継いでから二十五年間もの間、彼が一日と欠かさなかった習慣である。そして、それを伝書鳩に繋いで放すのがミュールド=ニルシュトの側近たるトレラテの習慣でもあった。
今日の手紙はいつもより少なめで、たった二通だった。
一通目はライク州の気象台からだった。
通年通りならノメイルの南を北西に向かって吹く風が、今年は寒冷化の影響でアンスル、ノース、レイク、ライクを通過する西北西の風になっています。その風に乗って旅行トカゲが前述の州の低空を通過するので、城に被害が及ばないよう、老婆心ながら対策を打つことをお勧めします。
寒冷化は何かと問題を起こす。作物は取れないし、病で倒れる者も増える。そして今度は旅行トカゲのルート変更。
主の返信には情報を伝えた事に対する感謝の気持ちが綴られていた。
二通目はガロレイド=シルドヴァイエル将軍から。
ネーズル王国の外交官が優秀な傭兵を至急、募集している。多額の仲介料が紹介者に払われるので、誰か知っていたらオルス港まで行かせてはどうか。期間は三日後まで。
そういえば、昨日ノース城を訪ねた青年は傭兵だと聞いた。主はトースからノースに戻った青年に一声を掛けさえすれば良い。それだけで青年にも主にも金が入る。期間についても、明日までにノースを出ればぎりぎり明々後日にオルス港に着く事が出来る。将軍の依頼をわざわざ断ろうとはしないだろうと思いながら主の返信を見ると、彼は将軍に謝罪の言葉を述べていた。何故だろうか。断る理由は無い筈なのに。

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