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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「抱擁」 遠征終了から一週間後 午後四時十分 ダクラ
「ダクラ、いるのか」
寝具に包まって安静にしていた私の元に、アラシュの声が聞こえた。手紙で今日の訪問について読んでいたが、まだ面と向かって話す勇気が出ない。何も言うことが出来なかった。
「ドア越しで、いいか」
「声さえ聞こえればそれで良いです」
辛うじて声を絞り出す。
「分かった。年上だと思って気にしているんだろうが、丁寧語じゃなくても気にしないからな。あと、手紙で言うのは良くないと思ったから実際に来たんだが、迷惑か」
「そんなことは無い、です」
「そうか」
アラシュが壁に寄り掛かる音がした。
「ちょっと、勝手にしゃべらせて貰う。前にも言った通り、俺はガゼルも、王族も、嫌いだ。それだけは変わらない」
あの時の記憶、孤独を思い出してしまう。耳を塞いでしまいたくなるが、我慢して続きに耳を傾ける。
「だがな、俺は俺自身が一番嫌いだ。ガゼルだと知った途端、手を返したように距離を取ろうとした俺は間違っていた。それにダクラを他のガゼルや王族とは一緒くたに考えるのは唯の偏見だと分かったんだ。ダクラ、済まない。許してくれと言えた口じゃないだろうが、改めて考えて、後悔していることだけ伝わってくれれば、俺はそれで良い」
静寂。いつも寂寥感を感じてしまう静寂に、今はぬくもりを感じる。目を拭った袖が濡れていた。このぬくもりは自分の涙、理解者を得た喜びの、涙だった。 
毛布を押し退けて立ち上がり、ドアに歩み寄る。まだ修復し終わっていない部位が悲鳴をあげるが、精神力で堪える。ドアに触れると、幽かに、アラシュのぬくもりを感じた。自分もドアに寄り掛かってみようかと思ったが、ちょっと恥ずかしくなってやめた。ただ、出来心で、驚かしてみたくなった。
内開きのドアを開け、倒れこんで来たアラシュに抱き付く。
「許すも何も、その気持ちだけで、私は嬉しいです」
先程のアラシュの言葉に返答した。
「わ、ちょ、いきなり抱き付くな」
対するアラシュは、予想以上に面食らっていた。
「だいたい、何で自室で女装しているんだ」
「ちょっと待て下さい。何でこれが女装に、
自分はアラシュの勘違いに気付いた。
「確かに部隊では指定の軍服を着ていましたが、だからと言って、何で私を男として見るのですか」
「え、違うの」
「違うも何も、私は普通に女であって、どうしてそれを間違えられるのですか」
「簡単に暴力振ったり、脅したりするし、あまり胸が無
「イマアナタナニヲイイマシタカ」抱き付いていたアラシュの首に絞めを掛けた。
「く、苦しい。あ、見た目以上に胸が無い。いやその、ダクラ済まん」
「本当、済む訳がありません」
服越しに伝わるアラシュの体温が暖かい。それに、結局和解できたのだから、これで良いかもしれない。すっかり以前、いやそれ以上の関係になっていた。
〈前篇・完〉

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あきゅろす。
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