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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「父子」 遠征終了から一週間後 午後四時 ミュールド
最終的に、部隊三○七は遠征開始から六日目にソノス城に帰還した。今日は開始から十二日、帰還から一週間経った神暦一○○九年十月十九日に当たる。
遠征四日目、王族の家主である吾輩が指揮官に直接掛け合うことで部隊への攻撃は止めて貰えた。どの道、鳩では精々拠点基地までしか届かないから、後で直接ガゼルが指揮官に届けるまでの間、下手すると部隊がノースに辿り着くまで、指揮官に届かない可能性が高かったというのもある。その後急いでノースに帰った後、ノースに着いた部隊の頭数を遠目でありながらも数え、百人いることを確認すると、死傷者がいない旨を書いた雁信をソノス城へ送った。隊員の身分確認が出来るのは部隊を編成したソノス州だけだからだ。そして、部隊がソノスへ到着すると直ぐに全隊員の身元確認が行われた。結局部隊にいた百人は全員部隊に登録されてあった。
死傷者のいないことが証明されたのだ。
そして、写真が偽造であるということになった。実際硝子盤を使いまわす際に、一度原板を良く拭き取らないと前に取ったものが薄く浮かび上がるという現象は、初心者にはよくあることだ。故意にガゼルが写った原板の内のガゼルの写っていない部分を拭き取り、拭き取った部分に部隊が収まるようにすれば、簡単に写真を偽造することが出来る。吾輩の目から見れば、あの写真はガゼルに当たる光度と部隊に当たる光度が全く同じなので偽造の筈は無いのだが。一応文章が偽りであると既に証明されているので、写真の方は適当に理由付けしておけば良いだろう。実際、ガゼル殲滅運動は沈静化している。
問題があるとすれば、それはダクラの容体だろう。ソノス城前での身分照合が済んだ直後に、吾輩の遣わした側近等はダクラを回収したが、既に全身が破損していた。立っているのも不思議な程だったという。急いでノース城まで運ばせ、現在は療養中だが、回復の度合いは芳しくない。
そして今、吾輩の抱える問題は突然の来訪者によって更に一つ足された。トレラテが伝えるところによると、来訪者は唯『息子』と名乗ったらしい。吾輩が『息子』と聞いて心当たりがあるのは、
部屋に通されたのはガゼルの右目とノメイル人の左目を持った男だった。思わずその名を口に出してしまう。
「アーリュエン」
「その名で俺を呼ぶな。今はアラシュ=マーセナルだ」
そういえば、ダクラ宛に『親展』と記した手紙が届いていたが、まさかダクラが以前話していた傭兵が彼のことだったとは。灯台元暗しとはこれのことを言うのだ。もっと部隊について調べておくべきだった。
「しかし何故今更になって吾輩に会いに来た。血眼になって探していたのは知っておろう」
「誤解するな。別に貴様に会いたくて来た訳じゃない。ダクラがこの城に、少なくともノース内にはいる筈だろ。あんな派手なことをやらかしたあとだから、人目に触れるところに置いておく訳が無いからな。俺はダクラに会いに来ただけだ」
復縁をするつもりはないのか。しかしこちらも何もせず引き下がる訳にはいかない。
「そうか。私の末っ子に会いにきたか」
「貴様の、子だと」
アラシュの冷めた表情の温度が更に下がり、凍り付く。
「お前の母親は確かに、お前を生んだ後、程無くして逝ってしまった。しかしな、まだ足りなかったんだ。後の世代での、三親等以内の近親結婚を防ぐには。そんなところにお前が失踪してしまった。そうなるとレトフランシェしか残らないことになる。このままでは一人の王族の血を純粋に継承する子孫すらいなくなるじゃないか」
現在王族の血筋はニルシュト家とウェルヴァウセル家の二つに分かれているが、前代にも類を見ない程に子が出来ず、辛うじてニルシュト家にレトフランシェがいるばかり。それは王族として最も危惧すべきことであることは一目瞭然だ。身体能力を極限迄高め上げた挙げ句、その戦闘能力が均質化してしまったガゼルをまとめあげることが出来るのは突然変異を起こし、ガゼルをも抑え込める程の進化を遂げたメタの子孫、王族だけなのだから。そして王族の血に王族以外の者の血が混ざる事はあってはならない。
「それで貴様、ウェルヴァウセル家の者と、
「ああ。そうだ」
「妹だろ。それじゃ三親等以内じゃないか。本末転倒だ」
「吾輩は目的、即ち王族の血を薄めること無く継承することの為には手段を選ばない」
そうだ。吾輩は今までそう自分に言い聞かせてきた。片隅では間違っていると思いながらも。しかし今それを否定しては、今までを全否定することになってしまう。それが怖くて、片隅からの声に耳を塞いで来た。
「残念ながら、俺はその目的に付き合うつもりは無い。兎も角、ダクラに合わせろ。用はそれだけだ」
もう聞く耳は持たないだろう。そろそろ潮時か。
「分かった。ダクラのところまで、今部屋の外に控えているトレラテに案内させよう」
「俺はそれしか用は無いからな」
退出しかけたアーリュエン=ニルシュト、現アラシュ=マーセナルの背中に声を掛ける。
「お前の血は将来ガゼルを、そしてノメイルを救うことが出来る。それだけは忘れるな」
息子は振り返りもせず、ドアの向こうへ去った。

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