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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「変更」 遠征三日目 午前〇時四十分 レトフランシェ
霧の中にそびえるソノス城はあらゆる窓から光が漏れていた。それは夜番が火事でも起こったのかと勘違いした程だ。無論、火事が起こった訳ではない。
先程、私の耳に義父と側近オラディナの談義が聞こえてきた。
「帝国使節が姿を眩ましたことを確認したのだな」
「ええ。全側近が城中を探し回りましたが、見つかりませんでした」
「なら、もうギロンを探すのはやめよう。他州に捜索願を出す必要もない。疫病神の方から消えて行ってくれたのだから。そして、帝国に踊らされたことは隠蔽しよう」
義父が足を一歩踏み出す。偏った食事で増えた体重が掛かり、床の軋む音がした。
「これより部隊の目的を変更する。ギロンの指示が無くなり、部隊を維持出来なくなった訳なのだから、帝国も文句は言えまい」
「では、新しい目的は何に致しましょうか」
「兎も角、トース内には立ち入らないような部隊にすれば良い。何にせよ、ガゼルの縄張り内に部隊を派遣するというのは、領地拡大を企てているかと思われて、他州の反感を買うからな。それに伝書鳩さえ届けばトース侵入に間に合うだろう。
目的については、そうだ、トースの北、バースの資源探索にすれば良い」
「では、伝書鳩で送り続けてきた雁信の文面も変えなくては」

 二十分後、新しい文面の雁信を携えた伝書鳩が放たれた。しかし、何故だろうか、初めて伝書鳩が城を離れていくのを見守った私は何か胸騒ぎを覚える。何時もの癖で耳を澄ます。すると、
判別するのが困難な程幽かに、霧の中から音が聞えた。
その頃は予想していなかった。これから一時間毎に、私はその音を聴くことになる。

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