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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「不穏」 遠征二日目 午前八時 レトフランシェ
私の義父の周りの空気がどこかざわついているのを感じた。
何かあったのでしょうか。
義父とは部屋が五層程離れているものの、聞き耳を立てれば話の内容を聞き取ることが出来る。私は耳を澄ました。
数分後。
「昨日の暮れに部隊の状況の報告を求める雁信を送っただろう。返信は戻ってきたか」
潰瘍持ちの胃袋から絞り出しのだろうか、生気の無い義父の声が聞こえた。他にも同じ所をぐるぐると歩き回る足音が聞こえる。ずしりと掛かった体重から、これも義父の物だと分かる。
「いえ。まだでございます」
答えたのは義父の側近、オラディナだった。側近としての能力はあまり高い方ではなく、当たり障りの無い事しか話さないが、二番目に勢力の強いノルビ州から献上された者なので将軍の側近として使うしか無かったという事情がある。
「鳩は戻ってきたか」
「いえ。それもまだでございます」
義父の溜息。
確かに妙であった。霧で視界が遮られようとも、今まで伝書鳩が目的地に着かないことは稀であったし、着かなかったら着かなかったで、必ず戻って来るように躾けてある筈だ。確かに猛禽類などに襲われることもあるが、提示報告の催促に送る鳩は六時間毎に一羽だから今までで計四羽。
一羽すら帰って来ないだなんて。
「こうしよう。今までは六時間毎に一羽であったが、これからは、返信があるまで一時間毎に一羽、伝書鳩を送り続ける。この際、雁信の写しは側近等にやらせておいて、全てに儂が署名をしておけば良い」
どうやら義父は人海戦術ならぬ鳩海戦術に踏み切ったようだ。
吉と出るか、凶と出るか。

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